34.いつもと同じ ページ4
「っ！やっ…」
相葉さんの胸をどん、と押す。
そのまま、横をすり抜けてオフィスから出た。
「Aちゃん！」
相葉さんの声が聞こえたけど。
私は足がもつれそうになりながら、走って走って。
駅の改札を抜けたところで、ようやく立ち止まった。
「どうして…」
あんな、こと。
相葉さんの伏せた長いまつ毛が近づいて来る瞬間と唇の感触が鮮やかに蘇る。
初めて、キスした。
少し前の私なら、嬉しかったのかな。
相葉さんのことがずっと好きだったのに。
今の私には、戸惑いと何かいけないことをしたような罪悪感しかなかった。
ホームに立っていると、うすい三日月が雲のすき間から見えて。
ぼんやり、涙でにじんだ。
次の日。
目覚まし時計がジリリ、と鳴っても私はしばらく止めないで布団にもぐっていた。
「会社行きたくない…」
松本さんにも、相葉さんにも。
顔を合わせづらかった。
でも休む訳にいかないし。
のろのろと準備をした私は、重い足取りで会社に向かった。
もう少しで着く、という時に。
「Aちゃーん」
相葉さんが追いかけてきた。
前を歩いていた人にぶつかりそうになって謝っている。
どうしよう、どうしよう。
心の準備が。
「おはよ！」
いつもと同じ笑顔。
あれ？
「今日さ、占いで一位だったんだよね、山羊座。なのに目の前で電車行っちゃってさ。
Aちゃん、何座？」
「水瓶座です…」
「水瓶座かあ。何位か忘れちゃったな」
昨日のことは何もなかったような。
いつもと同じ、相葉さん。
夢だった？まさか、それはない。
だってこんなにはっきり覚えてる。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
