38、三時のおやつはあなたと共に ページ38
××
「A、芥川を知らないかい？」
給湯室でお茶を沸かしているときだった。
鉈を持った与謝野が入って来たのは。
Aは与謝野を五度見した後、「それ、凶器ですか」と訊ねた。与謝野はああ、そういえばまだ妾の異能を云ってなかったね、と自身の異能について語る。彼女の異能───「
「いいよカードのために妾の異能を四十回受けるって条件出したンだ。なのに芥川の奴、四回で逃げやがった」
「つ、つまり、龍之介さんを瀕死の状態に追い込むってことですか！？それを四十回！？もしかして鉈はそれ用ですか！？」
「妾は解体が趣味でねェ。芥川もすんなり承諾してくれたよ。逃げたけど」
「そりゃ逃げますよ……」
「妾の解体はアンタの異能には攻撃だと見なされそうだ。瀕死になったときしか治せないだろうから小さな怪我もするンじゃないよ」
Aが全力で頷くと与謝野は艶やかに笑って再び芥川を探しに行った。彼が見つかるべきなのか否か考えながら紅茶と合わせるお茶菓子を探す。しかしまあ、判子の条件が四十回瀕死にされるというのは中々鬼である。そもそも四十回人間を瀕死にさせるなんて、与謝野の心は持つのだろうか。
「───サボりか、A」
「あっ」
Aが優雅にお茶菓子を頬張っていると今度は織田が入ってきた。
「あっ……さ、作之介さん、一杯いかがですか？」
「そうだな。もらおう」
Aは沸騰寸前だったお湯をティーポットに注ぎ込んで、しっかりと温める。そして、茶の缶をあけた。乱歩が依頼先でもらってきたという西洋の茶葉だった。
「慣れてるんだな」
「母には来客が多かったので……」
祖父母は母の来客にはお茶も出さなかったので代わりに私がやっていたんです、とAは織田にカップを渡した。美しく澄んだ紅い水面が、織田を見つめている。
「……ふふ、これで共犯者ですね。
作之介さんも飲んだので、独歩さんに報告することはできません」
「……してやられた」
元より、報告するつもりもなかったが。
Aは少し笑った後、カップを見つめたまま云った。
「……私、作之介さんには本当に感謝しているんです。あなたがいてくれたお陰で、母は旅をやめてくれました。それがなかったら今頃どうなっていたことやら。……もしかしたら髪とか染めて、危ない男とつるんでたかも」
「それは困るな」
**
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ナツロ - 初めまして、ナツロです。本編を読んでみて思ったのですが、本当に七竈ちゃんて母親一筋な子供なのですね。鉄道に興味を持ったのも母親が旅人だったからなのでしょうか (2022年6月11日 14時) (
レス) @page25 id: 1ff4849388 (このIDを非表示/違反報告)
柊あんず(プロフ) - 白氷さん» コメントありがとうございます！そうですそうです、可能世界でも一人一人に人生があって、そこを生きる彼らにとっては可能世界こそが現実でほんとうなんだ、というのを意識して書きました…そこに気づいていただけてすごく嬉しいです…！本編でも宜しくお願いします！ (2022年2月23日 16時) (レス) id: 69139934db (このIDを非表示/違反報告)
柊あんず(プロフ) - めめたさん» コメントありがとうございます〜！別の世界線でも同じ人を好きになるほどの運命力みたいなものはないので…太宰さんは原作からもうひたすらに織田作一途なのでそこの部分をあらためてちゃんと書けてよかったです笑 本編でも宜しくお願いします！ (2022年2月23日 16時) (レス) id: 69139934db (このIDを非表示/違反報告)
白氷(プロフ) - 完結おめでとうございます。繊細な文章の裏に込められた彼等の感情、生きる世界が素敵でした。例え可能世界でも一人の人間として各々存在しているんだ、と改めて思い直しました。彼等のBEAST軸の世界を味えた事が嬉しいです。更新お疲れ様でした！ (2022年2月20日 19時) (レス) @page50 id: 41a7177033 (このIDを非表示/違反報告)
めめた(プロフ) - 完結おめでとうございます！！めちゃくちゃ洗練された終わり方でさすがあんずさんや…と感動しました😍😍 別の世界線でも同じ人を好きにならないというところも好きです！太宰さんの性格も解釈一致でしかないです！！お疲れ様でした💓 (2022年2月20日 2時) (レス) id: 4037ff8461 (このIDを非表示/違反報告)
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