手遅れ l o v e r ((緑)) (ページ6)

今日:6 hit、昨日:3 hit、合計:59,846 hit

late 6 ページ6

楽しみにしているとばれたくなくて、わざと5分遅らせた。

彼女は、近くの噴水の縁に座っていた。

イヤフォンをつけていて、俺には気づいていないようだった。

少しだけきょろきょろしている姿が可愛いなと思った。

『A、』

肩を叩くと、驚いた表情で俺を見上げた。

「忠義、久しぶり」

柔らかく笑った彼女は、イヤフォンを耳から外す。

彼女は、スマホじゃ音楽を聴かない。

高校時代から、黒のウォークマンを使っていた。

『変えてへんの？』

「うん。スマホで聴くのは苦手なの」

真っ白なカバンにウォークマンを収めて立ち上がる。

あの日、ハイトーンだった髪の毛はダークブラウンに染められていた。

「行こうか」

耳元には、赤いピアスが揺れている。

『ピアス、開けたんやな』

「うん。この間。可愛い？」

『可愛い』

そう言ってやると、満足そうな顔をする。

「わたし、お店分かんないけど」

『あほやん。あー、んー、じゃあ、ここでいい？』

友だちとよく行く居酒屋を指さすと頷くので、2人で並んで店に入った。

『2人で』

「はーい2名様ご案内しまーす」

ブーツを脱いだ彼女が、ふわふわと後ろを歩く。

『奥行き』

「ありがとう」

奥に彼女を通し、向かい合って座った。