仲直り:立花仙蔵 ページ24
｢別れたいならいいよ。｣
小さな声でボソッと言い放った。
あっ...と後悔しても遅かった。
口から飛び出た言葉は、もう二度と戻ってこない。
｢そうか。ならもういい。｣
彼はそう言って長い髪を靡かせながら出ていった。
彼と恋人になって、もう7回目の喧嘩だった。
私も彼も素直になれない。
本当は甘えたいのに、かまって欲しいのに、訳の分からないプライドが邪魔して言い出せない。
お互いそんな自分にイライラしていた。
そのイライラが形を変えて、今回彼との喧嘩に発展してしまった。
事の発端は私だった。
｢あの2人。凄く仲良いよね。｣
そう言った私の目線には、仲良く手を繋ぎながら歩く男女
学園内でも有名なラブラブカップルだ。
｢確かに。見ていて恥ずかしくなるほどな。｣
｢羨ましい。｣
ボソッと言ったつもりだった。
けど、彼も忍びの卵。
耳は良かった。
｢私たちは仲が良くないとでも言いたいのか？｣
その言葉が癪に障った。
｢そんなこと言ってないじゃん。｣
｢だが、お前の言い方だとそう聞こえる。｣
私は人と言い合いするのが苦手だ。
とても面倒くさい事に思える。
｢じゃあそういう事でいいんじゃない？｣
毎回こんな態度をとってしまう。
弁解ができない。
｢なら、別れるか？｣
｢別れたいならいいよ。｣
ここで冒頭に戻るのだ。
些細なことで喧嘩して、毎度私が後悔する。
その繰り返しだ。
またやらかしてしまった。
でも謝りに行けないのが私たちだった。
プライドが邪魔してごめんの一言が言えないのだ。
｢ねぇ伊作。どうしたらいいかな。｣
同級の中で1番まともに話を聞いてくれそうな伊作に聞いてみた。
喧嘩する度に相談に乗ってくれる。
｢うーん。毎回言ってるけど、勇気を出すしかないんじゃないかな。｣
｢伊作はそればっかり｣
｢それ以外に方法がないじゃないか。｣
伊作の言うことは間違ってはいない。
勇気をだして素直に言えばいいだけなのだ。
｢Aは本当に仙蔵と別れたいの？｣
｢別れたくはない。｣
｢じゃあちゃんと伝えないと。仙蔵がどこか遠くへ行ってしまう前に。｣
そう言って優しく微笑む伊作は少し悲しそうに見えた。
｢ありがとう。ちょっと仙蔵と話してみるよ。｣
私はそう言って保健室を出た。
｢相談役でもいいって思ってたけど、なかなかしんどいなぁ...。｣
保健室で静かに消えていったその言葉は
伊作以外の誰にも届かなかった。
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作者名：優乃 | 作成日時：2020年12月20日 2時
