不死川さんといっしょ(物理)【不死川実弥】

後日。《無一郎の初恋》 ページ23

Aさんと不死川さんが恋仲になった。
やっぱりなあと思ってしまう反面、やっぱり寂しかった。


Aさんと話したのは、柱合会議が最初だった。
冷たく返してしまう僕にも、辛抱強く話しかけてくれた。
すごく優しい笑顔で。


あのぽかぽかしてドキドキする感覚、あれが初恋ってやつだった。
その笑顔に惹かれたんだ。
だから、その笑顔が不死川さんばっかりに向けられるのが悔しかった。寂しかった。


「やっぱり、ずるいじゃん。不死川さん」

「誰がずるいってェ？」


あ、本人来た。僕はちらりと横目で見たあと、気にせず紙飛行機を作り続けた。
すると、不死川さんは隣に座ってきた。
おい、勝手に座るなよ


「……よかったね」

「……あァ」


ちょっと皮肉めいてしまったのはしょうがないと思う。
まだ諦めきれてないんだから。


「お前もAのこと好きなんだろ。…お前ならなんか言ってくるかと思ってたけどよォ」

「Aさんが選んだんだから何も言わないよ。皮肉は言うけどね」


面倒くせェ…って呟いたの聞こえたからね。
あ、天野呼びからA呼びになってる。…僕と胡蝶さん、甘露寺さんだけだったのに。
やっぱり年下だからダメなのかな。


「Aさん泣かせたら承知しないからね。…間髪入れずに取るからね」


紙飛行機を折る手を止めてそう言えば、不死川さんは余裕の表情で返す。


「泣かせねェしあげる気もねェよ」


その言葉にふうん、と返して出来た紙飛行機を飛ばす。
ふわっと手を離れていった紙飛行機は屋敷から出て行ってしまった。


『あ、痛っ』

「！Aさん？」


慌てて外に出ると、紙飛行機を持ったAさんが立っていた。
僕の大好きな笑顔で、こちらを向く。


『やっぱり時透くんのだ』


すると、不死川さんも屋敷から出て来る。


「Aじゃねェか」

『あ、実弥さん丁度いいところに。さっき伊黒さんの鴉が探してましたよ？』

「わざわざ悪りィな」


…Aさんも下の名前で呼んでる。目の前でいちゃつくのやめてくれないかな。


「邪魔したな、時透」

「ねえAさん」


急に引き止めた僕に少し驚いたAさん。くるりと振り向いてどうしたの？と聞いてくる。
これは、自分なりのケジメのつもりでもあった。


「喧嘩したらいつでも来てね」


そう言って、諦めようと思ったのに。


『喧嘩しなくても行くよ？』


そう言って笑うAさんは、ずるかった。
…これが僕のあったかくてちょっと寂しい初恋だった。

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