２話 ページ4
いつのまにか消えた、万年金欠の社長さんに気づいた時には遅かった。
「はぁ・・・またやられた」
後でおばちゃんにどやされる事が決定した。
また花村さんは・・と言われるだろう。
「さすがに警察にでも相談しようかな、そろそろ」
彼に万引きされたのはこれで４回目だ。
まぁ、私が甘いという事もある。
しかしだいの大人が堂々と万引きするのはどうかと思うのは事実。
「アレが大人かと思うと・・世の末だ」
私は彼を追いかける事はせず呟く。
ま、歌舞伎町なんてこんなもんかと諦めがつくため無理に追う事はしない。
「はぁー」
大きなため息を吐いた時だった。
「マヨボロ１つくれ」
座る私に影がかかった。
すぐに作り笑顔に戻る。
独特の煙草の匂い。
「いらっしゃいませ。土方さん」
私が顔を上げれば見知った人。
「マヨボロですね」
「あぁ」
すぐに私はマヨボロを出す。
この江戸の警察と言われる真選組。
その真選組鬼の副長と言われる土方十四郎さん。
彼は毎日のように買いに来てくれる常連さんである。
彼はいつものように無言でお金をテーブルに置いた。
私も無言で彼にマヨボロを手渡す。
「・・・」
いつもの事ながら、私たちに会話はない。
今日も彼は仕事中なのだろう。
黒い隊服がキラリと光っている。
「・・・」
彼はマヨボロをポケットに入れると、そのまま店を出て行った。
そんな後ろ姿を見て私は再びため息を吐く。
「・・はぁー」
そのままテーブルに頭を突っ伏してうな垂れる。
「・・・また話しかけられなかった」
また後悔する言葉が漏れる。
毎日毎日、こうして私は後悔している。
万事屋の坂田さんには普通に話せるのに、土方さんには普通に話せない。
「どうやって話しかければいいんだろ・・」
私は顔を上げ、店の硝子を見ながら笑ってみる。
でもやっぱりぎこちない。
さすがマネキンと言われてるだけあると自分で思ってしまう。
「営業スマイルは簡単なのにな」
再び私はため息を吐いたのだった。
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作者名：沖田いずみ | 作成日時：2018年2月13日 10時
