９話 ページ11
ーー数日後
「・・変だ」
「なにがだい？」
私が呟いた声に言葉が返ってきて驚いた。
「悩み事かい？」
「あ、おばちゃん。ごめんなさい、お仕事中に」
いつもは裏に引っ込んでいる事が多いおばちゃんが、私の呟きが聞こえたのだろう。
「なにが変なんだい」
おばちゃんはしつこく質問してくる。
「えっと・・その・・」
「恋の悩みかい」
「そ、そんな、恋の悩みなんて！！」
恋と言われて浮かんだのはなぜか土方さんの顔で。
ついに私はおかしくなってしまったらしい。
「そうかね。わたしゃ、お昼近くのあの時間ソワソワしてるのわかってるんだけどね」
お昼近くと言われて考える。
あ、いつも土方さんが昼休みなのか、その時間に来ることが多い事がわかる。
ん？って事は・・。
「もしかしておばちゃんも土方さんとこの気にして」
「だってね、明らかに他のお客さんとの差がねえ」
そんなに違うのだろうか。
坂田さんにもキラキラしてると言われたなと思い出す。
「別に私は土方さんともっとお話したいだけです」
「そうかい」
そうだ。
私は土方さんと色んな話をしたいだけ。
土方さんの事がもっと知りたいだけなのだ。
「でもそれって、好きだから話したいんじゃないのかい？」
「好、好き！？」
あれ？好きってなんだっけ？
likeだよね？
好きってlikeだったよね？
「そ、それはお客さんですもの。お客さんとして好き・・なのかな？」
お客さんとして好きってなんだろう。
友達として好きは聞いた事はあるけど、お客さんとして好きって、自分で言っといて意味がわからない。
「こりゃ大変だね」
おばちゃんは私の前にお茶を置くと、自身もお茶を飲み始めた。
「いつもの頼む」
その声に私は飲もうと持ち上げた湯呑みを勢いよく置いた。
おかげ様でお茶が飛び散る。
「ひ、ひ、土方さん」
手が熱いけど気にしてられない。
時計を確認すれば昼過ぎだ。
ちょうど昼休みなのだろう。
「大丈夫か？」
「はい！！」
「こないだからおかしくねぇか？」
「そ、そんなことないですよ」
とにかくいつものマヨボロを渡すとすぐに帰って行った土方さん。
「・・やった」
おかしいと言われたのに私は嬉しく思う。
だって
「いつもより話せた」
そう、いつもの客と店員の会話以外の会話ができた。
会話の中身なんて関係ない。
話せただけで嬉しくなる。
こんな気持ち初めてだ。
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作者名：沖田いずみ | 作成日時：2018年2月13日 10時
