番外編「優鬼」7 ページ16
『涼しい〜…』
きらきらと光を放ち存在を主張し続ける月に照らされながらも夜風は静かに私の髪を靡かせる。
この雰囲気が好きで、叶うならば身体が許すまで此処に留まっていたいのだが…
そんな事をしていては折角久しぶりにじっくりシャワーを浴びたのに湯冷めしてしまう。
それは実に勿体無い事なので体調に気を配りつつ、頃合いを見て部屋に戻ろう。
……そう思っていた筈なのに。
広間の方から聞こえてくる酔っぱらい達のどんちゃん騒ぎの声々。私の部屋は広間の横の廊下を通らなければ辿り着くことはできない。
つまり、常に飲み相手を欲しているデミさんやホセさん等々…見つかろうともなれば深夜…夜明けまで付き合わされる可能性も低くはなかった。
明日予定されている折角の久しぶりのゲームだって、二日酔いの頭痛を抱えながらなんか集中など出来る筈がない。
ということで私は未だバルコニーに居るわけだが…
流石に寒い。
『どうしよっかな。』
私は呟く。
すると、隣から聞こえるカラカラとバルコニーの戸を開く音。
こんな時間に…?そう思い私はチラリと横を見る。
ドクン、
『っ…!?』
これ迄に心臓が大きく脈打ったことは無いだろう。
ゲーム中にハンターがすぐそこに居る時の心音とは比にならないくらいに。それに、きっと意味も違う。
それ程に私はその姿に釘付けにされた。
『な、んで…此処に……?』
この人が彼とは断言できない。だって彼が此処に居る筈が無いのだから……でも、直感的に感じた。
鋭く、でも優しい
あの時のように、月夜に照らされてきらきらと輝く、緑色の瞳。
まるで雪のように、手に乗せようともなら指の間から滑らかに落ちていってしまうような綺麗な茶髪。
虚空を見つめる、でも決して緩んでなどいない、凛とした表情。
『…Pourquoi es-tu ici? Je me souviens. Vous?』
狼狽えながらもそう問う。
改めて考えれば阿呆にも程がある行動だったと思う。
恐らく荘園の住人だと考えられるのだが、見覚えが無く、何よりもその姿が私の残った微かな記憶の中の彼と一致していた。
…服装を見れば直ぐに分かるだろうか?しかし、月の光は余りにも頼りなく、混乱していたのか私の夜目は全く効かなかった。
たった数秒間の沈黙でさえも私に不安を覚えさせるには十分だった。
「Avez-vous enfin remarqué?」
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おかさん(プロフ) - 今更ですが…更新…待ってます……… (2022年11月9日 20時) (レス) @page22 id: 48fcbe9d4c (このIDを非表示/違反報告)
カシューナッツ炒め(プロフ) - うぉううぉう…めっちゃ面白いですね!!続き楽しみにしてます!! (2021年8月24日 20時) (レス) id: ea7d5bd598 (このIDを非表示/違反報告)
RIRIKO(プロフ) - めっちゃドキドキしちゃいました!!課題って大変ですよね……無理せずに頑張ってください!!応援してます〜 (2021年4月6日 4時) (レス) id: 9b17341c39 (このIDを非表示/違反報告)
砂糖 - 続きがすごく気になります…………! (2021年4月2日 1時) (レス) id: 31e6f8227b (このIDを非表示/違反報告)
翡翠いろ(プロフ) - あかり510さん» わー!!ありがとうございます!!!告白の嵐……!嬉しいです!!()更新全然出来てなくて申し訳ないです……!頑張りますー!! (2021年1月18日 19時) (レス) id: c3dcbab85a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:翡翠いろ | 作成日時:2020年5月5日 2時