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誓った…のに。
「先生。進路相談お願いしたいんですけど」
それはまだ、授業前。
二宮が職員室を覗いてそう言った。
断るわけにもいかないし。
「…いいよ、どういう相談?」
「将来のことです」
じゃあ、あの冊子とあの本とあのプリントがあればいいかな…と考えて
「ちょっと部屋で待ってて」
軽く微笑む。
「わかりました」
二宮も軽く微笑む。
その部屋に入ったら二人っきり、とかは絶対考えない。考えたら負けだ。
両手で資料とパソコンを抱えながら進路室に入る、と携帯をいじってる二宮が視界に入った。
明らかに、やべ、って顔をしてる二宮を睨む。
「塾の中は携帯触るの禁止だろ?そもそも電源切っとけ」
「スミマセン」
口では謝ってても、しれっとした表情。さては今までずっと電源切ってなかったな、と睨む目が強くなる。
「あんまりルール違反多いと退塾も考えられるから」
「…はい」
脅し的なことを言うと、さすがに少しびびったのかしゅんとした表情。
なんか豆柴でも叱ってる気分だな。
「今回使ったのは見逃してやるから。もう使うなよ」
ほらこういう風に甘やかしちゃうから生徒なんか好きになっちゃダメなんだ。社会人失格すぎて泣けてくる。泣かねえけど。
「これは、二人だけの秘密、な?」
人差し指を自分の唇に近づけてしーっ、みたいなポーズをしてから、自分がだいぶ恥ずかしいポーズをしていることに気づいてやめる。
頬が熱い。
「わざとかよ、それ……」
二宮が眉間にシワを寄せてボソッと呟く。
「え?」
「何でもないです。それより先生、そろそろ座ったらどうですか」
どうぞ?とでも言うように椅子を勧めてくる二宮。なんでお前が偉そうなんだよ。
「…で?聞きたいこととかある?」
「ありますよ。沢山」
お、勉強熱心。と資料を準備しようとしたとき、その手を強く止められた。
華奢な腕が、ここまでの力を持っていることに驚く。
「資料はいらないです」
「は、」
「俺が知りたいのは先生のことなんで」
な、んだ。それ。
「そんなの進路相談じゃ」
「俺、塾講師になりたいんですよ」
また驚かされた。
「櫻井先生みたいな講師になりたいんで」
「…へえ」
嬉しくてにやけそうな頬を抑えながら何とか相槌だけ打つ。
「将来のことって言ったじゃないですか。これも立派な進路相談、ですよね」
「…まあ、そうだな」
右端の口角だけをクイッと上げて微笑む二宮に、俺は頷くことしか出来なかった。
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大翔(プロフ) - kkさん» 主催の者ではなく、練習曲29番を書かせて頂いただけの私ですが、主催の方がまだ作者さんを続けていらっしゃるのか分からないので、かわりにコメント失礼します。コメントしていただいて本当にありがとうございます! (2020年1月24日 23時) (レス) id: 7ff2e3a340 (このIDを非表示/違反報告)
kk - 素晴らしい作品!全部すごく良かったです。s受け尊し。 (2020年1月24日 23時) (レス) id: c2bfb0fe32 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵(プロフ) - Sさん» 突然失礼します、向日葵です。こちらはあまり更新しないのですが、青い鳥にて騒いでることが多いのでよろしければ…(@air__ap) (2018年2月1日 16時) (レス) id: 76ade9e498 (このIDを非表示/違反報告)
S(プロフ) - 返信ありがとうございます!! 早速検索かけます! (2018年1月28日 3時) (レス) id: 539aafff22 (このIDを非表示/違反報告)
あま音(プロフ) - Sさん» 恋色は青い鳥(@Kw_C2a)もやっておりますよ(*^^*) (2018年1月27日 9時) (レス) id: 95b1de6e50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:「赤い櫻は冬に咲く」製作委員会 x他6人 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月21日 9時