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7 誰しもが獣(下) ページ9

「ぬぁいいんむぐ?」
『…ごめん敦君、私日本語しかわからなくて…。不甲斐ない私を許してね…』


よよよ、と泣き真似をして巫山戯てみせると、敦君は必死に首を横に振る。
イカれた振り子時計の真似上手いな敦君…。
こうも素直な反応してくれると私としても嬉しくなっちゃうなぁ。



「何?そうなのか。お前たちは今日が初対面なのか」
「むぁんむぐ!むむあいんぐむ」
「そんな中太宰の奴が流れてきたと…。結局こいつが迷惑を掛けたことに変わりは無いんじゃないか!!」



な ん で 通 じ て る ん で す か
何言ってるのか微塵も理解できなかったんですが?


「君たちなんで会話出来てるの?」
『同感ですね。まあたまたま敦君と河川敷で会いまして。私がご馳走するって話になったんですよ』
「へえ。"たまたま"ね」

にい、と太宰さんは薄笑いを浮かべた。
意味深に向けられる笑顔に気が付かないほど、私は鈍くは無い。


─本当に?
その目はそう語っている


ですよね!
そりゃあ私の企みにも気が付かれているんだから、この出会いが意図的なものだ、なんて当然気がついてますよね。
私も端から隠し通せるだなんて思っちゃいない。



太宰さんから視線を逸らす。
そんな私を追って来るのに鋭い視線に知らんぷりをする。



「はぁ。何にしろこいつが迷惑を掛けたのには違いないからな。ここは俺が払う」
『えー、せめて自分のぶんは払わせて貰えません?』
「口説いぞ小娘!小僧のこれに比べればお前のそれは可愛いものだ」


まあそれはそうなんですけど…。
敦君の前には、数を勘定するのも馬鹿らしくなるほどに高々とした、茶碗の山。


「国木田君もこういってる事だし、素直に甘えておきなよAちゃん」
「我が物顔を止めろ太宰!元はと言えばお前が撒いた種だろう!!」
『…それじゃあお言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます、ご馳走様です』


小さく頭を下げる。
お金には困ってないんだけど…折角の厚意を無駄にするのも申し訳ないので、今回は有難くご馳走になることにした。
いつかお返しできるといいな。



『あ、すみません。少し御手洗に』
「行ってらっしゃ〜い」


にこにこと手を振る太宰さんにお辞儀をしつつ、足早に個室に駆け込む。
何とか耐えようとしたが、胃からせり上がってくる不快感に耐えきれそうもなかったので。

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作者名:砂上 | 作成日時:2023年3月21日 18時

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