汎愛少女は今日も微笑む (ページ13)

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11 罪を憎まず、人を愛せと(下) ページ13

『そう！1億人を爆破して悦に入る爆弾魔でも、人体をぐちゃぐちゃに切り刻む残忍な殺人鬼でも。無辜の民を虐殺する圧制者でも──孤児院育ちの路頭に迷いかけてる少年でもね』
「…えぇ？その中に入るのは流石に複雑…」
『えー？私の中ではどれも変わらず好きだよって云いたかったんだけど…』

困ったように笑う敦君の瞳には、チェシャ猫のようににんまりと笑う私自身が映り込んでいた。
自分で言うのもあれだけど、悪い顔してるなぁ。

『まあでも？敦君の考えを否定したいわけじゃないよ。言うなれば敦君は今は雛鳥ちゃんなわけですよ！孤児院という籠の中から飛び立った鳥なわけです』

──だからまぁ…

これから色々な人や物を見て、聞いて。それでも今のままの考えに落ち着くならまたそれもよし！
でも折角飛び立ったわけだし、外の世界、楽しまないと損でしょ？

『と、言いたいことが言えて満足。ご清聴ありがとうございました〜』

敦君は大きな目を瞬かせ、何かを言おうと口を開いた。
その時ガタンッと背後から大きな音がした。

敦君の肩が跳ね上がる。

「きっと奴ですよ太宰さん！Aちゃんも、早く逃げないと！奴が！奴が来たんです！」
『確かに凄い音したねえ』
「風でなにか落ちたんだろう」

太宰さんは素知らぬ顔。
私はそっと敦君からも太宰さんからも距離を置いた位置でいつでも動けるように身構えた。

「そもそも変なんだよ、敦君」

本を閉じた太宰さんは、教科書を読み上げるようにすらすらと敦君の秘密に切り込んでいく。
私も敦君も黙って太宰さんの話を聞く。
そして──そして。

敦君が不意に空に輝く満月に目をやった。

「君が街に来たのが二週間前。虎が街に現れたのも二週間前。君が鶴見川べりにいたのが4日前で、同じ場所で虎が目撃されたのも4日前だ」

バキバキと、音がする。
敦君の身体が作り替えられるように形を変える。
四足の影が大きく、大きく伸びていく──

「君だけがわかっていなかったのだよ。君も『異能の者』だ。現身に飢獣を降ろす、月下の能力者──」

月夜を震わすように白銀の虎の咆哮が轟いた。