耳もとに、やさしい歌を。【鬼滅の刃】

･ ページ3

ひとまず、屋敷に入ろう。








後のことはまたそれから考えればいい。









それから考えれば、









「何を考えれば、いいんだろう」









私はこの1ヶ月何を考えて、どう生きて死ねばいい？









私は、私は…









「A？帰ってきてたんだな、おかえり！」









「た、炭治郎」









普段一緒に任務をこなす事が多い、同期3人組の1人、竈門炭治郎。









誰よりも正義感に溢れ、心優しい青年。









と、声をかけられたことで、ハッと気づいた。









家の前に着いてから、もう20分もこうして外に立ち止まっていることに。









手や体は完全に冷えきってしまっている。









「こんな所で立ってたどうしたんだ？寒いから早く中へ入ろう」









「そう、だね」









藤の家の門を叩けば、おばあさんが出てくる。









「おかえりなさいませ」









簡素な挨拶を済ませ、寝泊まりしている部屋へと足を進める。









善逸と伊之助は昨日の任務が少しここから遠い所だったため、帰るのに時間がかかると行く前に言っていた。









遅くとも、夕餉には間に合うとも。









それまでは、炭治郎と2人で部屋にいることになる。









「6時頃、夕餉をお持ちします。」









「お願いします」









襖が閉じられたあと、どっと一日の疲れが体に押し寄せた。









座布団の上に座り込むと、間髪入れずにため息が漏れでる。









精神的にも肉体的にも、今日は随分と疲れてしまった。









今日は非番だが明日は任務がある、早めに寝て疲れを取らなけらば。









「なんだか随分疲れているな、大丈夫か？」









「え？あぁ…大丈夫。医者なんて滅多に行かないからちょっと気疲れしたんだよ」









へら、といつものように笑えば、炭治郎は眉根を寄せて「…そうか？」と言う。









(皆には心配なんかかけたくない、)









私はいつだって、笑った顔が好きだから。









そのきらきらとした朝日のような顔を心配に曇らせる所は、見たくないもの。

･→←設定

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す