最後の日 ページ25
朝。
障子の隙間から差し込む朝日に、目が覚めた。
寝覚めはいい。
だが体が妙に重だるく、腕を動かすことさえ億劫だ。
「とはいえ、寝てもいられないわけで…」
上半身を起こすと、普段はない目眩に頭が揺れる。
明らかに体が不調を見せていた。
本当に今日が最後なのだと思い知らされているようでなんだか気分が悪い。
思い切り伸びをして、深呼吸もすると幾分か楽になった気がする。
「よし」
頬を軽く叩いて、残った眠気を覚ますと軽く意気込んだ。
なんせ今日は最後の日なのだから。
───────
朝ごはんを食べ終わったあと、昨日買った着物を包んでいた紙から開けた。
昨日と変わらぬ慎ましやかな着物がそこに佇んでいて、添えられた帯や帯留めも、着物に合っていて美しい。
恐る恐る袖を通し、いつもより神経を使って帯を締める。
帯留めも、位置を何度も確認しながら付けて。
いつだったか母に買ってもらった、居間にある姿鏡に映った自分は、自分では無いように見えた。
思わずこれは本当に自分か、なんて馬鹿なことを疑って、鏡の中の自分に手を伸ばした。
それくらいには、浮かれていたのだ。
鏡の自分の手と、私の手がそっと触れる。
「これが、私…?」
そこに居たのは、綺麗な着物に身を包んだ町娘のようで。
夢にまで望んだ、普通の女の子が、目の前にいたのだ。
すっかり気分が上がって、着物の洋紙を片付けていると何かがコロリと洋紙の間から落ちた。
拾い上げてみると、可愛らしいガラス細工で出来た紫陽花の簪。
「お姉さんてば、こんなに可愛い簪まで…」
普段から雑に縛っている髪の組紐を解き、丁寧に髪を結い上げると簪を髪に差し込んだ。
もう一度鏡を見ると、紫陽花がチリリと穏やかに揺れる。
どんどん可愛くなっていく自分が嬉しくて、
随分と前に買ったまま棚にしまいこんでいた紅まで引っ張り出して、薄く唇に塗った。
「流石に紅は、似合わないかな」
自分の口に引かれたその紅は、見慣れないからかどこか浮いて見えて、ぐしぐしと手ぬぐいで乱暴に拭う。
698人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なーな - 初見です! 完結お疲れ様でした!めちゃくちゃおもしろかったし感動で涙でしたっっっ!!! 素敵な小説をありがとうございました! (2021年11月30日 15時) (レス) @page45 id: 03957af64f (このIDを非表示/違反報告)
もちゃ - 泣いちゃったw (2021年1月25日 0時) (レス) id: b4bfec10e3 (このIDを非表示/違反報告)
うさぎもち - 号泣しすぎて...う"う"う" (2021年1月20日 22時) (レス) id: 676d0f88d2 (このIDを非表示/違反報告)
さけふろ - 感動です! (2021年1月11日 15時) (レス) id: c7bf1c88de (このIDを非表示/違反報告)
夢鸞 - 号泣です。素晴らしいお話、ありがとうございました。 (2020年11月29日 12時) (レス) id: 640116ca2f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハナ | 作成日時:2019年9月30日 13時