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ちらりと時計を盗み見れば、夜中の1時半を少し過ぎた頃。
うん、そろそろ時間だ。
「私厠に行ってくるので、席少し外しますね。」
「あいわかった!!!!!」
いつにも増した大声で煉獄さんが返事をしてくれた。
部屋の外を出ると、冷たい夜風が火照った頬を撫でる。
昨日とは違って月は雲に隠れ、お世辞にもいい夜とは言えないような空模様だ。
「最後に綺麗な月、見たかったんだけどな。そりゃ無理か、散々皆を騙すようなこと、したんだから」
先程から胸の痛みが止まらない。
ズキズキなんて生易しい物じゃない、胸を抉られるような貫かれるような痛みに、思わずしゃがみこむ。
「お願い、もう少し…明日の朝まで、まだ…!」
ぐう、と抑え込むと、痛みが幾分か和らぐ。
朝からこれの繰り返しだった。
ふう、と息を吐き出すと、気合いで立ち上がる。
自室へと入り、着物から隊服へと着替える。
着物を見て、禰豆子ちゃんに渡そうか、と置き手紙を書くため筆を取ったが、すぐに思いなおして辞めてしまった。
死人から貰った着物など、なんだか着にくい気がする。
私だったらそう思うから。
そういえば、私は遺書とやらを書いていない。
人は自分の死ぬ時をあらかじめ理解している時、遺書を書くものだ。
私も、書くべきだろうか?
ああでも、伝えておかないといけないこともあるし…
出るまではあと30分程ある。
書けるだけ、書いておこうか。
───────
遺書を書き終わり、筆を置くと時刻は丁度2時少し手前。
いつも鬼狩りに行く時のように、腰に日輪刀を引っさげ、羽織を着て。
着物ももちろん良かったけど、ああ、これが私。
ちょっと残念な気もするけど、私らしいこの隊服がなんだかんだ1番好きだ。
出かける前に、もう一度だけ皆の顔を見て、それから行こうかな。
皆で鍋を食べていた広間に行くと、さっきまで起きていた煉獄さんや、宇髄さんも寝落ちていて、部屋からはいびきや寝言だけが聞こえていた。
皆の眠っている顔を見ると、不思議と死ぬ前だというのに笑みが零れた。
あぁ私、やっぱり皆が大好きだ。
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なーな - 初見です! 完結お疲れ様でした!めちゃくちゃおもしろかったし感動で涙でしたっっっ!!! 素敵な小説をありがとうございました! (2021年11月30日 15時) (レス) @page45 id: 03957af64f (このIDを非表示/違反報告)
もちゃ - 泣いちゃったw (2021年1月25日 0時) (レス) id: b4bfec10e3 (このIDを非表示/違反報告)
うさぎもち - 号泣しすぎて...う"う"う" (2021年1月20日 22時) (レス) id: 676d0f88d2 (このIDを非表示/違反報告)
さけふろ - 感動です! (2021年1月11日 15時) (レス) id: c7bf1c88de (このIDを非表示/違反報告)
夢鸞 - 号泣です。素晴らしいお話、ありがとうございました。 (2020年11月29日 12時) (レス) id: 640116ca2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハナ | 作成日時:2019年9月30日 13時