水引の恋. ページ48
.
頬を滑る指先が擽ったくて、ほんの少し目を細める。
そんな私を、彼は腕の中に閉じ込めた。
優しい香りに包まれて。
胸元に耳を寄せれば、力強い、彼の鼓動を感じることが出来て。
思わず、口元が緩んでしまった。
─────義勇さんが、こんなにも近く感じられる。
「…Aには、敵わないな」
『え?』
ぼそっと呟かれたその言葉に、顔を上げると。
今までに見たことのないくらい、柔らかな笑みを浮かべる義勇さんと目が合って…。
"どういう意味ですか?"
なんて、聞く前に。
『……、っ!』
ほんの一瞬、だったけど。
何十秒にも感じられたそれ。
ゆっくりと離れていく彼の顔を見ながら、"あぁ、口付けされたんだ" なんて事を考える。
口付け、された…?
『え…、あっ』
「どうした」
『……』
「…照れているのか」
『分かってるなら聞かないで下さい』
どこか得意気な表情の彼には、全部お見通し。
頬に残る涙の跡をそっと拭いながら、義勇さんは静かに口を開いた。
「共に、未来を生きてくれるか」
『…今更、嫌だなんて言うと思いますか?』
鬼が生きるこの世で。
いつその身が滅びるかも分からない。
そんなあなたと共に生きる覚悟なんて、とうの昔に出来ています。
そう伝えれば…義勇さんは再び私の腰を引き寄せて。
何度も何度も、甘い口付けを落としていく。
満点の星空の下。
ひゅう、と風が吹き抜ける中で。
私たちを囲むように咲いていた水引の花が、ゆらゆらと揺れていた─────
【水引の恋】.
484人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Hana :*・ | 作成日時:2020年7月9日 17時