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悲風. ページ29

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妙に冷たい風が、恐怖心をより一層掻き立てる。

太陽は完全に山に隠れてしまって。
本格的な夜の空気が辺りを包んでいた。

ぽつぽつ家の明かりが漏れているけど、街灯一つないこの道を一人で歩くのは少々気味が悪い。




『人攫い、か…』




足早に歩きながら、おばさんから聞いた話を思い出した。狙われるのは若い女の人。そして…それが、決まって夜に行われているということ。

もし、それが本物の人攫いなら。
おばさんに貰った玉蜀黍で何とか撃退できるかもしれないけど。

人攫いなんて、生易しいものじゃなかったら…。




『…いや、まさかこんな所に』




一瞬頭を過ったその存在を振り払って。
とにかく早く屋敷へ戻ろうと、先程よりも早く足を動かした。

どくどく湧き出る恐怖を、振り払うように。




…だけど。
こういう時の勘はよく当ってしまうらしい。

住宅街を抜ける小道を曲がった、その瞬間。
それ(・・)は、私の前に現れた。




「こんばんは、稀血のお嬢さん」


『…っ、』


「今宵は星が綺麗だね」




そう言いながら、ひらひらと手を振る。
一見、ただの人間のようだけど…。

口から滴る血と、鋭く伸びた爪はまさに─────




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遠のく.→←人攫い.



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作者名:Hana :*・ | 作成日時:2020年7月9日 17時

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