笑顔の裏に. ページ22
.
( 冨岡side )
突き刺すような日差しも幾分か落ち着き、時折生温い風が頬を撫でる。
程よく日陰となった縁側でAが入れてくれた麦茶を飲んでいると、隣に居た炭治郎がぽつりと呟いた。
「Aさんって、本当に優しい方ですね」
そう言いながら、庭を見つめる。
その視線を辿れば…草花に水をやるAと、その周りを走る猪頭たちの姿があった。
…あの猪、動いていないと死んでしまうのだろうか。
「Aさん、前に言ってました。
冨岡さんは命の恩人だって」
「…あぁ」
「俺も一緒です。
冨岡さんに会ってなかったら、俺は死んでたかもしれないし…禰豆子も、人を襲っていたかもしれません」
本当に、どう感謝を伝えたらいいか、と。
柔らかい表情で話す炭治郎を見て、ほんの少し心が和らいだ気がした。
この世界─────鬼殺隊に導いた自分の判断は果たして正しかったのか、何度も思い悩んだ。
あの冬の雪山で、俺が与えた "生" の所為で。
却って炭治郎を苦しめていたのではないかと危惧していたが…どうやら、案ずるには及ばないようだ。
「礼なら、仕事で返せばいい。
俺たち鬼殺隊の使命は鬼を討つ。以上だ」
「はい!」
…Aは、どうなのだろうか。
行き場を失った彼女に、かつての己と重ねて手を差し伸べた。その行動は…正しかったのだろうか。
いつもと変わらないその笑顔の裏に、抱えきれないほどの苦しみが未だあったとしたら。
今の俺に、何が出来るのだろうか…。
「炭治郎」
「はいっ」
「妹を連れて、また来てくれるか。
…Aもきっと喜ぶ」
「も、勿論です…!
ご迷惑じゃなければ、いつでも会いに来ます!」
硝子のコップを盆に戻し、ふと庭を見る。
そこには…紅色の百日紅を背に、太陽のような笑顔を浮かべるAの姿があった。
.
484人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Hana :*・ | 作成日時:2020年7月9日 17時