嘴平伊之助. ページ21
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お部屋にいた義勇さんに炭治郎くんたちが来てくれた事を伝えて。台所でお茶の用意をしていると、突然背後から声をかけられた。
ぱっと振り向けば、猪頭の子が腰に手を当てて立っていて…。
「半々羽織の女!お前にこれをやる!」
『え…?』
ぷしゅー、なんて鼻息と共に突き出された拳には、何かが握られているようで。
恐る恐る両手を出してみると、その上に小さな石が乗せられた。
『…これは、』
「俺様が見つけた石だ、綺麗だろ!」
そう言われて、自分の手を見てみると…たしかに、その辺に落ちているものとは少し違って。
青みがかった黒に、細い線が幾本にも入っている。まるで、水面に波紋が広がるように。
『こんなに綺麗な石、貰ってもいいの?』
「おう!衣がついたやつの礼だ!」
『衣?……あっ、天麩羅の事かな』
ふと頭に浮かんだのは、義勇さんと一緒に蝶屋敷へ行った日のこと。
みんなが訓練をしている間に、アオイちゃんと海老の天麩羅を作ったのだった。
どうやらこの子はその天麩羅を大いに気に入ってくれたようで。
"たまたま" 見つけたのか、それとも "わざわざ" 探してくれたのか。何にせよ、胸の中に温かい気持ちが芽生えるのは変わりなかった。
『ありがとう、大切にするね。
えっと…あなたは』
「嘴平伊之助様だ!」
『伊之助くん、素敵な名前ね。
私は香月Aといいます、よろしくね』
それから、頂き物の西瓜を適当な大きさに切り分けて。梅干しを漬けている壺を不思議そうに見ていた伊之助くんに運ぶのを手伝ってくれないかと頼むと、ぴょんと私の隣に飛びついてきて。
「俺様に出来ない事はねぇ!
こんなの容易いもんだぜ!」
猪突猛進!猪突猛進!と叫びながら。
両手に西瓜を乗せたお皿を持って、みんなの所へ走って行ってしまった。
そんな伊之助くんの後ろ姿を見て、思わずくすっと笑ってしまう。
何だろう…この、母性を擽られる感じは。
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作者名:Hana :*・ | 作成日時:2020年7月9日 17時