【d!】主役にクリスマスローズを【夢】 (ページ43)

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43．救いの手ページ43

「A！」

　私の名前を叫んだ彼は必死な顔で私の急行落下を止めた。

　何故か腕には普段頭に着けている緑のリボンが巻き付いていて、その先には全ての元凶かもしれない凛々しい奴がいた。

「総統様……離してください」
「ふざけるな！ここで手を離したら、あの日と同じだろ！」

　あの日。

　私の父親が手を伸ばさなかったせいで、私が病んでしまった。あの日さえ無ければ私は病み続けながら生きていくなんてことは無かったのに、総統様の身勝手なシナリオのおかげで私は散々な目に会ったのだ。

　得体の知れない人達と向き合って、常に笑っていられるように馬鹿みたいなことばっか考えて、あれでも心の安定を図るためには大事なことだった。いつか狂って殺されるんじゃないかって本当はずっと怯えてた。私は生きるためだけに愛嬌を振りまいてきた。

　だから、あなた達が悲しんだところでこっちはざまあみろって感じなんだよ。だから、だから離して欲しい。もうこれ以上自分には居場所があるなんて思いたくないから。甘やかさないで欲しい。

「お願いだ、全部話すから。お願いだから2人揃って生きるのを諦めないでくれ！俺はもう大事な奴を失いたくないんや……」

　総統様の言葉が私の心を揺さぶる。

　大事な奴って言って貰えたことに対してつい喜んでしまう自分がいる。こんな奴でもいて欲しいって思う人がいることに。

　腕に巻きついているリボンが更に私の肌を締め付けた。オスマンさんの異能力なのは分かるんだけど、どういう異能なんだろうこれ。

「グルッペン！急に通信切れたけど何が……ってA？！なにしとんのお前？！」

　意識を逸らしているうちにトントンさんが駆けつけてきた。緑のリボンで宙ぶらりんな私を見て驚きの声をあげる彼の姿は新鮮だ。よく怒ってはいるけど冷静な人だから。貴方からしたら私ってだいぶ馬鹿に見えるんだろうね、その通りだよ。

　私vs総統様の綱引きもトントンさんも加わり、一気に身体が持ち上がる。わー、力強い。

　コンクリートに体を打ち付け、そのままばったりと倒れる。死にそびれてしまった。お父さんに会えなかった。まさかマフィアに命を救われるとはね……ずっと奪われると思ってたのに変な感じ。

「……A」

「あは、ショッピさんまで来たんですか」

　残念ね、貴方の大好きな私はお2人がかっこよく救ってくださいましたよ。もう遅い。

　紫色の瞳を見て、何だか泣きそうになってしまう私がいた。