【d!】主役にクリスマスローズを【夢】 (ページ5)

今日:12 hit、昨日:1 hit、合計:11,593 hit

5.生まれ変わりページ5

薄暗い部屋で硬いベッドの上に横たわっているだけの生活を続けてはや2日目。最近本当にまともな暮らしをしていないので精神状態も危うくなってくる。精神状態の代わりに身体の健康状態はすこぶる良くなってはいるが素直に喜べない。

「Aちゃんご飯持ってきたよ～」
「ありがとうございます」

　神と書かれた布を頭につけたゆるふわドクターことしんぺい神さんがいつも通り食事を運んできてくれる。誰が作っているのかは知らないが、ここの料理はどれも普通に美味しかった。しんぺい神さんが作っているのならハイスペックな人だ。

　黙々と食事をしていると、隣でしんぺい神さんが医療器具を整理し始める。布の隙間から見える整った顔が男慣れしていない私の心臓を速くさせる。今まで恋をしたことなんて無いけど異性には弱い傾向があるのは確かだ。惚れにくいけど意識はしやすいなんてめんどくさい性格だなぁと自覚している。

「うん。もう充分健康体だし、きちんと話し合ってきてもいいかもね」
「話し合い、ですか」
「大丈夫大丈夫。マフィアだからって簡単に殴ったり威嚇したりする奴らじゃないから」

　そもそも治療してもらえてるんだから優遇されてる、と朗らかに笑うしんぺい神さん。
　笑っているけれどこちらは全然笑うことが出来ない。この人いまなんて言った？あの人たちのお仕事をサラッと暴露しましたよね。マフィアって……マフィア…………って、なんだっけ。

　実態はよく分からないけれどとにかくヤバいってことだけは分かる。合法では無いことばっかやってる頭おかしい集団だろうし、下手したら赤黒サンタ野郎より死ぬ確率が高い。神様は私をこの世から早く回収させたいのだろうか。あいにく親に見放されたうえに莫大な時間を奪われた私には生存願望しか残っていない。

　何としてでも生き延びたいが相手はマフィア。ちょっと顔が整ってる程度の無能女子高生に何が出来るというのだ。殺される未来しか見えないなんて悲しすぎる。

　昔聞いた誰かの言葉が頭に過ぎる。

『女はね、媚びれば長くて安心安全な人生を、自我を貫けば悔いのないかっこいい人生を手にいられるのよ』

　決して名言とは言えないが私の悩みを打ち消す力は充分にあるお言葉だ。別にかっこいい人生なんて求めてないし、私の悔いは父親の本心を知らないまま別れたということだけ。

　ならば、とことん媚びて1日でも長く生きていくことが最善策。

　……益々自分のことが嫌いになりそうだ。