【d!】主役にクリスマスローズを【夢】 (ページ29)

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29.疑問ページ29

攫われて3ヶ月しか経っていないと思っていたら1年近く経過していた。その事に気づいてからはほぼ放心状態で、申し訳ないけどトントンさんにはそのまま屋敷へ戻ってもらうようにお願いした。

　揺れる車内の中ではずっと自分の生命が保たれていた理由を考える。3ヶ月ならまだなんとかなる気がするけれど、1年近くとなれば話は別だ。

　それに、1年間の記憶がごっそり抜けているという事実が上手く受け入れられない。誘拐された後は寝てる記憶しかないの。マジで1年間1度も目覚めずに眠り続けたわけが無い。

「トントンさん、私、人間ですよね」

「……何当たり前のこと聞くんや。お前はれっきとした人間やで」

「そう、ですよね」

　きっとただの記憶喪失だ。あの期間は凄惨な生活だったから、防衛反応で記憶が抜け落ちているだけだ。その間に案外必要最低限の衣食住に与えられていたのかもしれない。じゃないと説明がつかないよこんなこと。

　不安定な感情を誤魔化すように足をぶらぶらさせていると何かを蹴る感触があった。手を伸ばしてみると黒い手帳が出てきた。なんだろう、これ。

　気が紛れるかもと思って開こうとしたらトントンさんに取り上げられてしまった。

「誰かの落し物や。勝手に開いたらアカンで」
「む……分かりました」

　トントンさんの言う通り、人のものを見るものでは無い。私だって知らない誰かに手帳とか見られたら死ぬほど恥ずかしいし。だからこそ他人のは見てみたいと思うけど。

『____奇跡だ。』

　手帳を捲りかけた時に唯一見えた言葉。

　私が生きてこれた理由が奇跡だって言われているみたいでドキッとした。本当に、生きてこれられた理由は何でもなくて、ただの偶然、奇跡が起こっただけの事だとしたら。

　そうだったら、いいな。

　屋敷に戻って、皆への挨拶も適当にして私は部屋に引きこもった。今日はお休みしていいって言われたからこのままずっと寝ていよう。明日の朝には今日のことなんて忘れて、また忙しなく働いていられるだろう。こんなこと、考えていても無駄だ。