4-24.ぶりっ子ちゃんの魔法 ページ25
あの時は、てっきり夢野先輩を一年生だと思い込んでいた。下手したら中学生でも不思議ではない。夏目先輩と肩を並べるとなおさらだ。極端な身長差、体格差。にわかに信じがたいが、二人は同い年なのだ。
「ぼく、昨日ここにいたよ。一番乗りで」
と夢野先輩は掃除用具入れを一瞥した。口が動いているから喋ったのは間違いないのだが、テレパシーのように間接的に頭に響いてくる。やがて雪のように溶けてなくなり、たった今聞いた声がどんなものだったか忘れてしまう。
「なんだよーいたなら出てくればよかったのに。てっきり成仏したのかと」
「ずっと夏目の背後にいたよ」
「コワッ!」
「嘘」
「嘘かい!」
「本当かも」
「どっち!?」
「分からない」
「自分のことなのに?」
「人間ってそんなもん」
「人間から一番かけ離れてるやつに人間を語られてもなあ……」
軽快な会話のラリーを繰り広げているが、二人の纏うオーラは水と油ように混ざっていない。夏目先輩が司る現世と、夢野先輩が司る幻想が邂逅しないように生じた境目が、二人を隔てているように錯覚する。
「きみ、ぼくに気づいてたよね」
ふと声をかけられた蘭ちゃんは、わたしの隣で過剰に肩を揺らした。「あ、えっと」と言い淀んでいる間に夢野先輩は音もなく真正面に立つ。曰くありげに見つめた後、自分の頭の上に右手を乗せ、その高さを固定したまま蘭ちゃんに向かって真っ直ぐ手を伸ばした。
夢野先輩は悲しそうに呟いた。
「……身長、負けた」
あれは身長を比べる動作だった。大差はないが確かに蘭ちゃんの方が高い。
「心配しなくてもきっと明日には天井ぶち抜いてるさ!」
「そうだと嬉しいけど……」
「すみませんっ、これからは頑張って縮みます……!」
「そ、そんな努力しなくていいよ……。ぼくが伸びればいいだけだから」
しょげる夢野先輩の小さな背中には、性別問わず年齢問わず、常に「見下ろされる側」であり続けた慢性的な劣等感が現れている。
なら、ここは――もえたんの出番だ。
てててと夢野先輩の前に立ち、ある程度距離を取ってから少しだけ屈み、
「くらえ♡ 夢野先輩がたけのこさんみたいにぐんぐん伸びちゃうび〜むっ☆」
と、うるうる上目遣いをお見舞い。
「……ありがとう」
突然のぶりっ子に夢野先輩は唖然としていた。でも、双肩に垂れ込める自信のなさがちょっとだけ晴れているように見えたのは、気のせいではないと信じたい。
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やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね!私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました!ありがとうございます!これからも更新頑張って下さい!! (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました!!皆大好きです!!次の更新楽しみにしてます!! (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます!!お楽しみいただけてとっても嬉しいです!これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます!偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆の字 | 作成日時:2020年3月30日 18時