4-37.ぶりっ子ちゃんの解放 ページ38
「次は蘭さんにも感づかれないようにかくれんぼの腕を磨いてくるよ」
音もなく交わされた夢野先輩とのハイタッチ。この時だけ、夢野先輩の薄すぎる存在感が何となく普通の人間のそれとして定まったように見えた。唯一気配を感じ取り、かつ身長がほんの少し上回る蘭ちゃんへの密かな対抗心のためだろうか。
やがて順番が回ってきた泉先輩は固く口を閉ざしており、腕を組んで手を出そうとしなかった。自己嫌悪を始めたのか、無表情が仄暗い。
そこへ蘭ちゃんが、ハイタッチで貰った勇気を纏いながら歩み寄った。
「さっき、泉先輩がハイタッチしようって言ってくれた時……本当はすごく嬉しかったです。だって私も、泉先輩と仲良くなりたかった、ので……」
初めて自分から出す両手は、今にも消えそうなくらい頼りなさげに震えている。
だからこそ泉先輩は、こうしちゃいられないと腕組みを解いて、右手を、左手を出し、蘭ちゃんの手の平を受け入れた。「不甲斐ない先輩ね、私……」と一瞬だけ頬をぴくりと動かし、あと一歩で表情と呼べそうな何かを作りながら……。
「百恵ちゃん」
弾んだ声で呼ばれる。とても嬉しそうに、蘭ちゃんがわたしに両手を出していた。
……蘭ちゃんを見守るのに夢中になり過ぎて、わたしがここにいることをわたしがど忘れしていた。相変わらずうっかり者だなあ……なんて自嘲をももえがおの奥底に隠しつつ、所在なげだった両手を前に出した。
ぱんっ、と手の平同士が乾いた音を響かせた瞬間。突然、わたしのまぶたの上に蘭ちゃんの記憶が淡く流れていった。
もりりん先輩とハイタッチ、夏目先輩とハイタッチ、夢野先輩とハイタッチ、泉先輩とハイタッチ――そんな蘭ちゃんの実体験が、まるで自分の実体験であるかのように一人称視点で映し出される。さながらわたしも、肯定され、励まされ、受け入れられているような――。
そうか……蘭ちゃんはわたしに教えてくれているんだ。ありがとう、おかげで分かったよ。
わたしは、ここにいるんだ。
わたしは、ここにいていいんだ。
ここが……わたしの……。
わたしの、居場所なんだ……。
意識が立ち戻ると、目の前で微笑みかける蘭ちゃんが、その後ろには黒板が、周りには先輩達が、両端には机と椅子が、今にも一斉に飛びついてきそうなくらい瑞々しく映って、思わずぽかんとした。
おやっ、不思議だなあ……。
化学講義室って、こんなに明るかったっけ。
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やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね!私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました!ありがとうございます!これからも更新頑張って下さい!! (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました!!皆大好きです!!次の更新楽しみにしてます!! (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます!!お楽しみいただけてとっても嬉しいです!これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます!偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆の字 | 作成日時:2020年3月30日 18時