3-27.ぶりっ子ちゃんの打破 ページ28
ヒグラシの鳴き声がお別れの時間を知らせる。名残惜しさを口にしながらも、蘭ちゃんは帰り支度をし、わたしは部屋の片付けをした。
「じゃーあ、塒さんが原稿担当で、もえたんがパワーポイント担当ってことでいいかな？」
「うん、大丈夫だよ」
来た時よりもえらく膨れた手提げカバン(余ったお菓子をわたしが強引にねじ込んだ)を持って蘭ちゃんは答えた。心なしか、いや間違いなく、硬かった表情が柔らかくなっている。
だからわたしは、チャンスは今だと思った。
「ね、塒さん！ もしよかったら、
一か八かで言ってみたが、蘭ちゃんはすぐさまカバンからスマホを取り出し、ぎゅっと握りしめて、
「喜んで……っ！」
と言ってくれた。
家族と、卒業後連絡が途絶えた中学の友達くらいしかいない寂しい友達欄に、新しい友達が追加された。アザラシが布団にくるまって寝ているアイコンをまじまじと見ながら、ふと気になることを言ってみた。
「塒さんのお名前、『ねぐらん』になってるんだね♪」
「あ、うん……。前の高校の友達が、そう呼んでくれたの。私の、初めてのあだ名」
そのままにしちゃってた、と儚げに笑う。
――呼んでみたい。その四文字。
でも、わたしにはまだ早い。もう少し時間が必要だ。それ以前に、わたしたちの間には打ち破るべき壁が立ちはだかっている。それは、初歩的でありながらもなかなかに堅牢強固な――
「朝戸衣さん」と「塒さん」の壁。
「――蘭ちゃん！」
心の声じゃないと言えなかったそれが、勢いよく飛び出した。
「って呼んでも、いいかなぁ……？」
今度は一か八か、なんて大層な賭けは必要なかった。
打ち破れると信じていたから。
そして――照れくさそうに頷いてくれたから。
「蘭ちゃんっ！」
改めて口にした。さらにぶりっ子ポーズに上目遣いも添えて、渾身のもえもえおねだり。数拍置いてから、何をおねだりしているのか気づいた様子で、蘭ちゃんは遠慮がちに言った。
「――百恵、ちゃん……？」
「壁」が壊れた。
「もえたんでも、いいんだぞっ♡」
全力で走り、「壁」の瓦礫の先に立つ蘭ちゃんに飛びついた。
蘭ちゃんが帰った後でも、ずっと、ずっと、そのあたたかい感触がじんわりと残っていた。
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やま(プロフ) - 面白いです、笑っちゃいました。 (2021年9月19日 13時) (
レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
無気力に自信が有る人 - あ、真白と同一人物です！ (2021年7月25日 17時) (レス) id: 19b8beddf0 (このIDを非表示/違反報告)
無気力に自信が有る人 - 思わず笑っちゃいました！しかも、なんか余計にクラスの人に�猜僂陛朖瓩辰道廚錣譴修Δ覆海箸鬚錣兇錣供帖帖帖帖�この小説凄く面白いです！ (2021年7月25日 17時) (レス) id: 19b8beddf0 (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ぶりっ子についてプレゼンする人なんてそうそういないですよね（苦笑） (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - Rukia (ゆっくりゆる)さん» ありがとうございます！！一人一人の登場人物をこんなに丁寧に見てくださって本当に嬉しいです！（いつか名前も覚えていただければ大変恐縮です！）りうむちゃんのことも好きになってもらえて嬉しいです、ぜひ推してあげてください！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆の字 | 作成日時：2019年12月7日 15時
