3-14.ぶりっ子ちゃんの日暮 ページ15
掃除が完了する頃には、すっかり夕方になっていた。ボタンを連打してエアコンの設定温度をガンガンに下げ、労働の汗を冷やしながら絨毯に大の字になる。
セミの声が遠くで聴こえる。カナカナと言ってるからヒグラシか。わたしが夏の終わりを悟るのは、ヒグラシの鳴き声を聴く時と、生涯を終えたセミが通学路で転がっているのを頻繁に見かけるようになった時。他の季節に比べると、夏の終わりは特に哀愁を帯びていると思う。プレゼンが終わる頃には、とっくにあのヒグラシも役目を終えているのだろう。
夏休みにくつろぎ倒した汚部屋は、面影も残さずピカピカ。これで明日には、誰に見せても恥ずかしくない桃園を開園出来る。記念に自室をスマホで撮った。「朝戸衣さんって、すごく几帳面なんだね」と褒めてくれる蘭ちゃんを想像しては、勝手に照れて舞い上がった。
――いいや、でも。
むしろ、がっかりさせてしまうのではないだろうか。
確かに綺麗になった。けれど同時に、無趣味で何の面白みもないわたしが浮き彫りになった。何らかのポスターを貼っているわけでもなく、何らかの楽器を置いているわけでもなく、何らかのグッズを揃えているわけでもない、無機質なわたしが。
学校のわたしは「もえたん」だ。蘭ちゃんだって、「朝戸衣百恵」よりも「もえたん」を多く見てきた。だから、蘭ちゃんが、女の子女の子してて可愛いぶりっ子らしい部屋を期待するのは何ら不思議ではない。しかし残念ながら、わたしはその期待に添えられそうにない。
ぶりっ子の欠片もない、地味子を通り越して虚無子な部屋。それを目にした蘭ちゃんの表情を何通り、何十通りもその真っ白な天井に思い描いていたら、いつの間にかヒグラシは鳴き止んでいて、階下から夕飯を知らせるお母さんの声が聞こえた。
〜〜〜〜〜
土曜日。蘭ちゃんが遊びに来る日。お母さんを手伝って家全体の掃除を終え、早めに昼食を取り、「もえたん」になり、準備万端。
わたしはリビングのソファに座り、スマホをいじりながら約束の時間を待った。何気なくりうむちゃんのTwinterを開いてみる。ああ、まだ質問箱考えてなかったなと思いながらも、わたしの意識はその上に示されている現在時刻だけに向いていた。食器を整理するお母さんも、心なしかソワソワしているようだった。
あと10分、あと5分、あと3分、あと1分――そして。
コロンの左側の数字に1が足されたと同時に、インターホンが鳴り響いた。
3-15.ぶりっ子ちゃんの歓迎→←3-13.ぶりっ子ちゃんの憧憬
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 333人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やま(プロフ) - 面白いです、笑っちゃいました。 (2021年9月19日 13時) (
レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
無気力に自信が有る人 - あ、真白と同一人物です！ (2021年7月25日 17時) (レス) id: 19b8beddf0 (このIDを非表示/違反報告)
無気力に自信が有る人 - 思わず笑っちゃいました！しかも、なんか余計にクラスの人に�猜僂陛朖瓩辰道廚錣譴修Δ覆海箸鬚錣兇錣供帖帖帖帖�この小説凄く面白いです！ (2021年7月25日 17時) (レス) id: 19b8beddf0 (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ぶりっ子についてプレゼンする人なんてそうそういないですよね（苦笑） (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - Rukia (ゆっくりゆる)さん» ありがとうございます！！一人一人の登場人物をこんなに丁寧に見てくださって本当に嬉しいです！（いつか名前も覚えていただければ大変恐縮です！）りうむちゃんのことも好きになってもらえて嬉しいです、ぜひ推してあげてください！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：豆の字 | 作成日時：2019年12月7日 15時
