2-12.ぶりっ子ちゃんの運命 ページ30
「あ、あの……朝戸衣さん」
「……え……?」
信じられないことが起きた。席に帰るところだった田山君に、話しかけられた。その上、眼鏡の向こうで、どこかわたしを気遣うような目をしている。
「大丈夫、ですか……?」
――その一言だけで、目尻に溜まって今にも零れ落ちそうだった熱いものが、溢れ出しそうになった。わたしは歯を食いしばってそれを堪えてから、
「うんっ! もえたんはぁ〜席替えにわくわくしているの♪」
と、顎に拳を乗せる例のぶりっ子ポーズをしながら、笑顔で答えた。
田山君は安心したのか、心配そうだった表情はいつもの穏やかさを取り戻していた。やがて彼が改めて席に帰っていくのを確認してから、わたしは我慢していた涙を一筋流した。鼻を啜って、すぐに拭った。
上目遣いが出来た。潤んだ目を見せることも出来た。潤んだ目はあくびも目を瞬きもせずに出来た。思いがけずあの時のリベンジを、今ここで果たせた。
ぶりっ子の階段をひとつ登れた気がした。
自惚れと言われたらそれまでだが、もしかしたら彼は、別にわたしのことを嫌っているわけではないかもしれない。いずれにしても、こんなわたしに気遣いの言葉をかけてくれた田山君は、優しい人に違いない。
ぼんやりと考えているうちに、わたしのひとつ前の順番の女子がくじを引いていた。慌てて彼女の後ろに並んだ。その子も九番とは違う番号の席に名前を書いた。
わたしの番だ。
結局、わたしの番が来るまで奇跡的に九番が引かれることはなかった。今日は本当にツイている。これもラッキーアイテムのおかげか。今消しゴムは胸ポケットに入っている。
筒に入った割り箸に手を伸ばした。
わたしの一学期は、徹頭徹尾自分の首を締めていただけだった。もしもクラスメイトが意地悪だったら、未熟な痛いぶりっ子であるわたしはいじめられていても何らおかしくなかった。それほどバカなことをしてきた。今でも後悔している。
だがしかし、「変わりたい」という気持ちは揺るがなかった。
ああ、神様。いいえ、悪魔でもいいです。もう誰でもいいです。わたしは選り好みを出来る身分ではありません。
こんなバカでも。こんな恥晒しでも。
――どうか、手を差し伸べてください!
己のすべてを込めた一本を、今引き抜いた。
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酔風 - 面白かったです…夏目先輩かっけぇ!萌ちゃん許せるどころかファンになりそう…。続編読んできます(`・ω・´)ゞ (2021年7月25日 10時) (レス) id: d8696aafac (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 夏目せんぱぁああい!!いつか、いつか言紡高校に入学してもいいですかっ!?!? (2021年7月19日 17時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - 初めまして!こんな小説を求めていました!この小説を読んだ方が、ぶりっ子=悪女とかでは無くて、ぶりっ子は一つの個性なんだなって思ってもらえると良いですね!ももたんめっちゃ好きです!頑張ってください〜! (2021年7月17日 15時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - 「ふんぬぁぁああ゛ぁあ゛ァあッ!゛!」 握力計ったときのこれ好きですwwwwwww (2021年7月17日 14時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ありがとうございます!!確かにぶりっ子の言動を見ていると、自分にも思い当たる節があったり……なんてことが自分にもあったりしました(笑)「ぶりっ子のふり見て我が振り直せ」ですね(汗)夏目先輩を好きになってもらえてすごく嬉しいです! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆の字 | 作成日時:2019年9月9日 17時