2-11.ぶりっ子ちゃんの希望 ページ29
「えっとねー、六番！ ってうそぉっ！ 一番前じゃん！ え〜気軽に寝れな〜い……」
「寝るなよ」
女子リーダーが引いたのは今わたしが座っている席だ。浮かれた様子が一変し、急にガクリと肩を落としながら、トボトボと自分の席に帰っていった。もしやわたしの最前列の呪いが伝染してしまったのだろうか。
「あー！ ウチも一番前だわ！ あれっ隣じゃんやばー！」
「マジで！？ やったー！ ゆーちゃんと隣なら一番前でも全っ然いいやー！」
しかし友達のゆーちゃんという子と隣になったらしく、次の瞬間にはけろっと元通りになった。
その後も黒板に書かれた席がどんどん埋まっていく。幸い、九番はまだ誰も引いていない。このままわたしの番が来てくれ。九番はわたしが座る予定の席だ。絶対に他の人に座らせやしない。
次は田山君が黒板の前に出てきた。田山君はわたしの席のすぐ近くだから、わたしの番が迫っているということだ。冷房が効いているのに、汗の量が増えてきた。消しゴムの桃の香りを精神安定剤にした。これがないと、張り詰めた心が破裂しそうになる。
なんだか田山君を久々に見た気がする。こんな顔だったか。そうだ、入学当初のあの時は、ぶりっ子するのに精一杯になって相手の顔どころじゃなかったんだ。あれから彼とはひとつも言葉を交わしていない。それどころか罪悪感からまともに顔向けすら出来ていない。彼だってわたしとは関わりたくないだろう。最前列ど真ん中の席のせいで彼と距離が近い。彼をなるべく見ないように目を伏せた。気まずいから、早く引いてほしいと思った。
チョークを控えめにコツコツ鳴らす音が聞こえる。そうっと視線を上げると。
九番――田山君は、塒さんの隣に、名前を書いていた。
何が起きたのか、今のわたしのバカな頭では、すぐに理解が出来なかった。
ただ、奥底にあった、暖かく光るものが、すうっと、消えていった気がした。
さっきまであったはずの足場が突然脆くなり、崩れ、わたしは崖から落っこちた。真っ黒な谷底に、そのまま飲み込まれようとしていた。が。
「あ、おい田山。九番じゃなくて十九番やぞ」
「えっ？ あ、すみませんっ！ 失礼いたしました」
その時、凄まじい力で腕を掴まれた。そして引き上げられた。その先にあったのは、九番――のひとつ前に名前を書き直す、田山君の姿だった。何故かその田山君はじんわりと滲んで曖昧にしか見えなかった。
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酔風 - 面白かったです…夏目先輩かっけぇ！萌ちゃん許せるどころかファンになりそう…。続編読んできます(｀･ω･´)ゞ (2021年7月25日 10時) (
レス) id: d8696aafac (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 夏目せんぱぁああい！！いつか、いつか言紡高校に入学してもいいですかっ！？！？ (2021年7月19日 17時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - 初めまして！こんな小説を求めていました！この小説を読んだ方が、ぶりっ子＝悪女とかでは無くて、ぶりっ子は一つの個性なんだなって思ってもらえると良いですね！ももたんめっちゃ好きです！頑張ってください〜！ (2021年7月17日 15時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - 「ふんぬぁぁああ゛ぁあ゛ァあッ！゛！」 握力計ったときのこれ好きですwwwwwww (2021年7月17日 14時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ありがとうございます！！確かにぶりっ子の言動を見ていると、自分にも思い当たる節があったり……なんてことが自分にもあったりしました（笑）「ぶりっ子のふり見て我が振り直せ」ですね（汗）夏目先輩を好きになってもらえてすごく嬉しいです！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆の字 | 作成日時：2019年9月9日 17時
