2-1.ぶりっ子ちゃんの二学期 ページ19
二学期の幕が上がってしまった。校長先生のありがたいお話にやかましく相槌を打つセミたちの声も、整列して座るわたしたち全校生徒の間を器用に縫って流れ込む熱気も、どこか遠い夢のように感じた。
転校生。ずっとそのことばかり考えている。
男子なのか、女子なのか。女子だったら嬉しい。おしゃれなのか、地味なのか。派手すぎなければ嬉しい。性格は良いのか、悪いのか。こんな痛いぶりっ子でも許してくれる優しい人だったら嬉しい。なんて、自分にとって都合のいい転校生を思い描くのに没頭していた。けれど突然、こうも偉そうに相手に要求できる身分ではないだろうとどこからか叱咤が飛んできて、我に返った。
やきもきする。大事なシーンでCMが流れてお預けをくらった気分だ。校長先生のお話は長いCMだ。どうしようもないからひたすら気を揉んで終わるのを待つしかない。
落ち着きなく視線をあちこちに当てる。生徒の列に向かい合って並び立つ先生は、出席簿をうちわ代わりに扇いだり、タオルでこめかみの汗を拭ったり、ぼーっとしていたり、悪あがきのような残暑の熱気にバテている様子。生徒の方も、夏休みの思い出をひそひそ語り合ったり、日焼けした腕を見せ合ったりして暇を潰していた。
そうして暑さと退屈さに耐えながら校長先生のお話を聞き終えると、数人の生徒が足早に前に出てきた。表彰のコーナーだ。なんの取り柄もないわたしは賞状に触れたことがない。よくぶりっ子を頑張ったで賞があれば金賞を狙えたのにと心の中でぼやきながら拍手を送った。
校長先生から賞を貰う生徒の中で、ひときわ輝くオーラを放つ男子が一人、いや二人いた。出席番号の関係で最前列に座るわたしは、その顔立ちの良さをよく見ることができた。二人とも水泳部で、何かの大会で優秀な成績をおさめたようだ。一人は一位の賞状、もう一人は二位の賞状を授与された。あちこちで(特に三年生から)女子の黄色い声が上がる。心なしか拍手が大きい。すごい人気者みたいだ。一位の男子は照れくさそうに笑っていた。二位の男子も晴れやかな笑顔を見せていた。けれど、一瞬だけ――ほんの一瞬だけ、二位の男子が一位の男子を横目でちらっと見て、悔しそうに眉をきつく歪めたのが見えた。それがやけに印象的だった。始業式が終わって教室に戻るまで、転校生のことと二位の男子のあの表情が頭の中で同居していた。
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酔風 - 面白かったです…夏目先輩かっけぇ!萌ちゃん許せるどころかファンになりそう…。続編読んできます(`・ω・´)ゞ (2021年7月25日 10時) (レス) id: d8696aafac (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 夏目せんぱぁああい!!いつか、いつか言紡高校に入学してもいいですかっ!?!? (2021年7月19日 17時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - 初めまして!こんな小説を求めていました!この小説を読んだ方が、ぶりっ子=悪女とかでは無くて、ぶりっ子は一つの個性なんだなって思ってもらえると良いですね!ももたんめっちゃ好きです!頑張ってください〜! (2021年7月17日 15時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - 「ふんぬぁぁああ゛ぁあ゛ァあッ!゛!」 握力計ったときのこれ好きですwwwwwww (2021年7月17日 14時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ありがとうございます!!確かにぶりっ子の言動を見ていると、自分にも思い当たる節があったり……なんてことが自分にもあったりしました(笑)「ぶりっ子のふり見て我が振り直せ」ですね(汗)夏目先輩を好きになってもらえてすごく嬉しいです! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆の字 | 作成日時:2019年9月9日 17時