幸せ者 ページ4
「なあ、リズィー」
「……なんでしょう」
「ごめんな」
自室で書類仕事をしている最中、一通りの家事を終え大人しく座って待っていたリズィーに突然相楽が謝罪の言葉を零す。前置きのない突拍子な発言だがリズィーは予測出来ていたようで、驚く様子もなくただ静かに目を伏せた。
「またですか」
「なんだ、呆れてんのか?」
「……少しだけ」
「はは、ごめんな」
まただ、また謝った。リズィーは音に出さないように息を吐く。
数週間に一度程度の頻度で相楽はリズィーに謝罪をした。いつかなんて正確なタイミングは決まっていない。何をきっかけにかもわからない。だが謝るのだ。しかもその頻度は年々近くなっている。そしてリズィーはその謝罪の理由を知っていた。
答えは自分の寿命が近づいて来ていることを自覚し、ウェポンであるリズィーを近い未来
「……」
「悪かった。そんな顔しないでくれ」
眉を下げなんとも言えない表情でその言葉を口にする相楽に、リズィーはいつも困っていた。いや困るというより悲しむの方が正しいのだろうか。上手く言えないが相楽のその言葉を聞くたびにリズィーの心臓がぎゅっと痛むのだ。何か言いたいと強く思うのに、口を開けても具体的な言葉は出てこない。だからリズィーは口を開けては閉じてを繰り返す。こんなこと、昔は無かったのに。
「くぁあ、眠ぃなぁ」
相楽は一度謝り満足すると、今の事を無かったかのように振る舞う。表情も切り替え、まるで今までのことは冗談か何かだったかのように。今回も呑気に欠伸なんかをしている。
「……」
これまでは流して来た。相楽の発作のようなそれが治るのを困り顔で待つしかできなかった。だが何故だろう、今は動けそうな気がする。相楽の欠伸を見て少しだけ苛立ちを覚えた。それは今までになかった変化だ。金魚のように開閉することしかできなかった口からも、今ならちゃんとした言葉を出せるような気がする。どうしてかはわからないが、不思議と行動を起こせそうな、そんな妙な感覚が体を支配していた。
「……あ、の」
「ん?」
か細い声だった。けれど出せた。空気しか吐くことができなかった口から確かな言葉を吐き出すことができた。リズィーはこくりと唾を飲み込み、ゆっくりと相楽へ近づく。相楽は普段と違うリズィーの様子に仕事の手を止め後ろを振り向いた。
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●龍●(プロフ) - そのためならいくら責め立てられようと構わない。そういう考えなのです…。文字制限で削ってしまった部分でもあったので、怜皇様が察してくださってとても嬉しいです…!! (2018年8月14日 11時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わーまたまたコメントありがとうございます!! そうなんです、相楽の嘘は将来気づかれ責められたり憎まれてりしてしまうもので、けれどそれを覚悟の上で嘘を吐いたのです。今女子生徒が絶望に落ちるよりも、笑顔でいる方がいい。 (2018年8月14日 11時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
怜皇(プロフ) - わっわっそんな相楽さん(´;ω;`)相楽さんが女子生徒の笑顔を守るために嘘をつくところ、すごく心痛みました…卒業して外に出るようになった生徒に攻められ恨まれる可能性だってあるのに…相楽さん(´;ω;`) (2018年8月13日 21時) (レス) id: 0ed6205140 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» 怜皇様はどう思われるだろうか…と不安でした。なのでこうしてわざわざ来てくださり感想を伝えてくださった怜皇様の心遣いがとても嬉しいです!!リズィーさんと相楽と、そして怜皇様と作り上げた素敵な関係が表現できていたなら良かったです…! (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わわわ怜皇様じゃないですか…!!こんばんは、早速見てくださりありがとうございます…!!こんなにもたくさんお褒めいただき、光栄であると共に本当に心から嬉しいです!今回は前話より更にリズィーさんを大胆に動かしてしまったような気がしたので、 (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
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