炎の呪いを解くのはあなた ページ17
母が俺を強く強く抱きしめた。次から次へと流れる涙は瞬く間に蒸発していく。炎はもう、数ミリ前まで来ていた。
母は、泣きながら、何かを覚悟したように俺の目を見て、そしてさっきとは違って俺の体を覆うように、火から守るように抱きしめた。母の背中が炎に向くようにして。俺はお母さん、と呟いた。
「銀二、どうかあなただけでも生きてね」
「……嫌だ」
「そんなこと言わないで、ね。お願い」
「一人は嫌だ!」
赤子をあやすように、母は抱きしめた俺を軽く左右に揺らした。嫌だとぐずる俺に、母はもう一度「生きて」と言って、その直後声を上げて苦しみ始めた。炎が母の体を焼き始めたのだ。
「あ、ああっ、熱い、熱い!!」
「おかあさ、離して、やだ、やだ」
「いや、ああッ、うっ、がへ、ひゅ」
怖かった。母の呻き声が、死の叫びが耳元で聞こえるのだ。苦しそうにもがく母は、そんな余裕ないはずなのに俺の体を決して離そうとしなくて。怖い、死んでしまう。怖い、怖い、怖い。
俺は母の体の合間から、殆ど燃やされ尽くした家の中を見た。一瞬見えたその時、俺が見たのは、ぎぎっという音ともにゆらりとこちらに向かって倒れてきている、大きな大きな柱。スローモーションのように見えたそれは、母の体と、そしてその景色を覗いていた俺の目の周りを、顔半分を襲った。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ア!!!」
皮膚を、骨を溶かされるような強烈な痛みと断末魔の叫びと共に、俺は現実へと戻るのだ。
「た、すけ、」
「……ら、ま! ____相楽様」
「!!」
俺は目を開けた。はっ、はっと息を荒げながらまだ覚醒していない脳を必死に働かせようとする。慌てて体を起こす力すら入らなかった。ここは一体どこか。そうだ、俺は炎に、火事で、死ん……!!
「相楽様、大丈夫ですか。悪い夢でも見ましたか」
その言葉にはっとした。悪い夢。そう、今見ていたのは夢だった。ここは、あの家ではない。先程から声をかけてくれているのは、自身のウェポンのリズィーだ。心配そうに俺の顔を覗いている。
俺は酷く安心して、大きく息を吐いた。この夢を見たのは何年振りか。学生時代に一度見て、それきりだったか。いやもう一度見ていたかもしれない。どっちにしても本当に久し振りに見た夢だった。
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●龍●(プロフ) - そのためならいくら責め立てられようと構わない。そういう考えなのです…。文字制限で削ってしまった部分でもあったので、怜皇様が察してくださってとても嬉しいです…!! (2018年8月14日 11時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わーまたまたコメントありがとうございます!! そうなんです、相楽の嘘は将来気づかれ責められたり憎まれてりしてしまうもので、けれどそれを覚悟の上で嘘を吐いたのです。今女子生徒が絶望に落ちるよりも、笑顔でいる方がいい。 (2018年8月14日 11時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
怜皇(プロフ) - わっわっそんな相楽さん(´;ω;`)相楽さんが女子生徒の笑顔を守るために嘘をつくところ、すごく心痛みました…卒業して外に出るようになった生徒に攻められ恨まれる可能性だってあるのに…相楽さん(´;ω;`) (2018年8月13日 21時) (レス) id: 0ed6205140 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» 怜皇様はどう思われるだろうか…と不安でした。なのでこうしてわざわざ来てくださり感想を伝えてくださった怜皇様の心遣いがとても嬉しいです!!リズィーさんと相楽と、そして怜皇様と作り上げた素敵な関係が表現できていたなら良かったです…! (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わわわ怜皇様じゃないですか…!!こんばんは、早速見てくださりありがとうございます…!!こんなにもたくさんお褒めいただき、光栄であると共に本当に心から嬉しいです!今回は前話より更にリズィーさんを大胆に動かしてしまったような気がしたので、 (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
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