臆病者 ページ1
「お帰りなさいませ、相楽様」
「おう、ただいまリズィー」
ある休日の午後五時半頃。空が鮮やかなオレンジ色に染まってきた時間帯に相楽は寮の自室に帰ってきた。そして丁寧に出迎えをする自身のウェポンであるリズィーに返事をし、何処か疲れの滲む声色と表情で脱いだ靴を揃えることもなく部屋のソファに飛び込む。
「あー疲れた。……ん? オジサン灰皿何処やったっけ」
「先程溜まってた吸殻を処理させていただきました。台所側の机の上に置いてありますので、今取ってまいります」
「や、オジサンが取ってくっからいいよ。ありがとな」
リズィーは律儀に靴を揃えてから灰皿を取りに動き出す。それを止めて相楽が灰皿を机の上から取り、またソファに座って煙草を取り出した。ライター入らずの能力を相楽は持っている。煙草の先を指先で軽く触れるだけで火がつくのだ。なんて便利な力なのだろう。
相楽は煙草をしっかり味わいながら、ふうと煙を吐く。部屋で堂々と吸うその行為は普通なら嫌がられるものだが、長年の付き合いであるリズィーはもう慣れたらしく、咎めることなく台所でお茶を淹れ始めた。
「あれ、また部屋が綺麗になってる。今日もやってくれたのか?」
「はい。衣類や食器も洗わせていただきました」
「……お前なぁ、昨日もやってくれてただろ。お前だって忙しいのに無理してやんなくていいんだぞ? ……それともオジサンの服に染み付いた加齢臭が取れないから、とか?」
「……」
「そこで黙るかリズィー……!」
相楽の問いに答えずにリズィーは淹れたお茶をお盆で運び、相楽の目の前にコトリと置く。相楽は礼を言ってから「嘘だろ……」と自分の私服の匂いを確認し、微妙な顔をして「マジか」と大きく溜息を吐いた。
だが少し間を開けてから、リズィーはそれを否定する。
「違いますよ。……今朝の相楽様は表情が曇っていらしたので、今日は何か嫌な用事が入っていたのかなと。そうだとすれば自室を綺麗にしていた方が、帰ってきた際に少しでも気を休めるのではないかと勝手に判断した結果です」
「!……そこまで考えてくれてたのか」
「それにあなたが私も同行することを拒まれたので、余った時間を潰すためにも」
「そりゃオジサンが悪かった」
彼女なりに自分のことを考えてくれていたんだな、と感動しながらも次の言葉で相楽は思わず苦笑した。表情にはあまり出ていないが、相楽にはわかるのだ。僅かな寂しさや心配の想いが言葉の端々から漏れ出ていることに。
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●龍●(プロフ) - そのためならいくら責め立てられようと構わない。そういう考えなのです…。文字制限で削ってしまった部分でもあったので、怜皇様が察してくださってとても嬉しいです…!! (2018年8月14日 11時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わーまたまたコメントありがとうございます!! そうなんです、相楽の嘘は将来気づかれ責められたり憎まれてりしてしまうもので、けれどそれを覚悟の上で嘘を吐いたのです。今女子生徒が絶望に落ちるよりも、笑顔でいる方がいい。 (2018年8月14日 11時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
怜皇(プロフ) - わっわっそんな相楽さん(´;ω;`)相楽さんが女子生徒の笑顔を守るために嘘をつくところ、すごく心痛みました…卒業して外に出るようになった生徒に攻められ恨まれる可能性だってあるのに…相楽さん(´;ω;`) (2018年8月13日 21時) (レス) id: 0ed6205140 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» 怜皇様はどう思われるだろうか…と不安でした。なのでこうしてわざわざ来てくださり感想を伝えてくださった怜皇様の心遣いがとても嬉しいです!!リズィーさんと相楽と、そして怜皇様と作り上げた素敵な関係が表現できていたなら良かったです…! (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 怜皇さん» わわわ怜皇様じゃないですか…!!こんばんは、早速見てくださりありがとうございます…!!こんなにもたくさんお褒めいただき、光栄であると共に本当に心から嬉しいです!今回は前話より更にリズィーさんを大胆に動かしてしまったような気がしたので、 (2018年8月11日 22時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
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