* ページ7
《過去》
誓には妹がいた。が、「敵」に襲撃された際に守れきれず大怪我を負い、一命はとりとめたものの植物状態に陥ってしまう。元々彼らの両親は離婚していて誓と妹は父の方で育てられていた。母親の行方は不明で、連絡も取れていない。
誓が入隊した理由はとんでもなく強い復讐心からと、二度と妹や「自分たち」と同じ人間を出したくないという思いからだった。
母と離れたことに加え妹が植物状態になったことが引き金となり、みるみると何事に対しても関心が低くなっていってしまった父親と、毎日毎日確かに時間は過ぎていっているはずなのに、そこだけ時が止まったかのように目も開かず動きもせず、たくさんの管や機械のおかげで日々変わらずやっとのこと生きている状態の妹と。笑顔が消えた父親と、眠っているようにしか見えない妹と、こちらを見ない父親と、妹と。
再び目を開く可能性は限りなく低い、ゼロに近い値である。そう医者に宣告されながらもその僅かの可能性を信じ無理矢理に命を繋ぎとめていれば、日が経つにつれて病院に行くたびに医師側から安楽死を勧められるようになり、数週間もすれば医者も鬱陶しいと、いい加減にしてくれという感情を少しずつあらわにし出した。誓の気持ちはわからなくもないが、ほぼ死んでいるのと同じ状態の人間のために、一つ病室を使えなくしているのだから当然といえば当然だろう。助かる可能性のある人間の方を助けたいと思うのも、当たり前だ。
諦めろと暗に言われ続け、いまだに眠り続ける妹に誓本人もどうすべきかわからなくなり。無関心を極めた父親はあれだけ愛していた娘の生死の決断にさえ、無関心を貫き始めた。
妹は、このままでいいのだろうか。苦しんでいはしないだろうか。もし苦しんでいるとして、そうだとしたらいっそのこときっぱり死んでしまった方が楽なのではないか。無理矢理にでも生きて欲しいと願うのは、自分のエゴなのではないか。
__そもそも、彼女は本当に生きていると言えるのか…?
主人は少しずつ確実に、追い詰められていた。正常な生活など、もと通りの生活などできるわけもないのだ。昔の四人で幸せだった日々が頭を駆け巡って、胸を思い切り掻きむしった。
__そして、決断の日が来る。
主人は強くなった。そして同時に脆くもなった。
普通と少し逸れた道を一歩、いやそれどころか二十歩三十歩差をつけて前を歩く彼の、広い背中を、勇敢な後ろ姿を。
一体誰が、止められようか。
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ