化け物が百十九匹。 ページ32
「待て、悪かった。おまえを疑ったわけじゃない。少し考えていただけだ」
「はァ?疑ってたじゃねェか、本当かって」
「あれはただの確認だ。……俺の言い方が悪かったな。すまん」
こんなするすると謝られると思ってなかった俺は、一瞬瞠目すると頭を搔きむしり立ったままわざとらしくため息を吐いた。
「気持ち悪ィ。今日オマエ変だな。さっきかららしくねェことばっかりしやがって」
「失礼だな。俺だって自分が悪いと思ったら謝るさ。くだらない意地をはって自分の不備を認めないのは」
「合理的じゃない、だろ?」
「!」
「テメェのそれは聞き飽きたんだよ」
お決まりになったクソワカメの言葉を奪い、先に俺が呟く。そしてその後部屋の出口に向かって歩きだした。
「帰る」
「急だな」
「疲れたんだよ。帰ってさっさと寝る」
クソワカメの横を通ってドアノブを掴む。ソイツはもう何も言わなかった。
「あ」
そしてドアノブを捻った瞬間、俺は思い出した。
大事なモンを言い忘れてたことに。
「どうした?」
「今までの話全部、ぜってェ他のヤツに言うなよ」
「……ああ。わかってる」
「俺に命かけて誓え」
「あ?」
「もしテメェがそれを破ったら__」
俺はドアノブを握ったまま、振り返らずに前を見て淡々と告げる。
俺の空気が変わったのに気づいたんだろう。クソワカメは何も言わず黙って俺の次の言葉を待っていた。
俺は数秒、間をおいて吐き出した。
「俺はテメェを許さねェから」
「!」
自分でも驚くほど低い声が出た。
地を這うような、唸るような声。
言い切った俺はすぐに部屋を出た。
クソワカメの反応も見ないまま。
*
相澤side
一之瀬が出て行った後、俺は懐から見慣れたパッケージのゼリーを取り出すと、勢いよく吸いこんだ。
口の中に広がる味を楽しむことなく飲み込むと、じゅこっと間抜けな音を立ててすぐにパックは空になる。
俺はその空のパックを口から離すと前髪をかきあげ呟いた。
「……許さない、か」
死ねだの殺すだの物騒な言葉しか使わないあいつの口から絞り出されたのは、普段と比べると随分柔らかい言葉。
だがその変化が、言葉に重みを与えていた。
「まだ、足りない」
あいつは少しずつ変わってきてる。
でもまだ足りない。
根本的なものが変わらなければ意味がない。
「……後はお前らに任せるよ」
それは、俺の役目じゃないから。
俺は静かに目を伏せた。
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名前決まらないドン(プロフ) - 戻ってくる事を祈って待っております (2019年5月11日 13時) (レス) id: 54f25622c3 (このIDを非表示/違反報告)
あげあげ! - 主人公のツンツンデレ具合がちょうど良すぎて死にそう(吐血) (2018年7月16日 23時) (レス) id: 94845ca325 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - うふさん» あなた様にこの小説が読み返されていることがとても幸福です!確かにみんな格好良いですよね…! (2018年7月14日 13時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
うふ - 読み返すたび毎度思う、全キャライケメン。 (2018年7月12日 3時) (レス) id: 54f25622c3 (このIDを非表示/違反報告)
●龍●(プロフ) - 餅原 葵さん» 初めまして、コメントありがとうございます!一之瀬君が人気でとても嬉しいです…!そう言っていただけて本当に有難いです!更新頑張らせていただきます! (2018年7月3日 18時) (レス) id: 5b64b63f06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:●龍● | 作成日時:2017年12月25日 19時