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低い声が届いて、ユリは足を動かすのをやめた。
下を見ると、もうあと一歩で足場が無くなるところだ。
振り返ると、真っ黒の教授が立っていた。
この人が校庭にいるのは見たことがないかもしれない、と現実逃避の場違いなことを思いながら、ユリは小さく声を絞り出した。
「ちがいます。ペンダントが、この湖に落ちたので」
「潜って探そうと？」
そう言われて、ユリは押し黙った。
スネイプの顔は見ないままだった。
しかし、視界の端にキラリと青白く光ったものが見えて、勢いよく顔を上げる。
スネイプの左手に、あのペンダントがかけられていた。
ユリは息を呑んでそれを見つめる。
スネイプがそれを差し出すと、ペンダントは勝手にふよふよ浮いて、そしてユリの首にかかった。
途端、ユリの瞳から涙が溢れ出す。
それにユリ自身がびっくりして、ローブの袖で乱雑に目元をぬぐった。
スネイプはため息をついてユリに近づき、その細い手首をぐいと引く。
こんなところで泣きじゃくって、足を踏み外されでもしたらたまらない。
この湖の中には何がいるかわからないのだから。
ユリとスネイプは、湖のほとりの、ブナの木陰に腰を下ろした。
そこは、城のどこからも死角になる場所で、ユリはぐずぐずと泣き崩れた。
「な、なんでっ、ぇ、とうさんのことまで、言われなきゃな、ならないの」
「……」
「血のつながりが、な、な、なんなの。私にお父さんがいちゃ、い、いけないの」
スネイプは何も言わなかった。
ユリの背中をさすりもせず、セドリックのように抱きしめもせず、ただ、隣に黒いマントを散らして座っていた。
ユリはその後もしゃくりあげていたが、それは徐々に収まった。
それも、考えが整理されてきたからではない。
あることが、ユリの頭いっぱいを占めだしたからだ。
「……じいちゃんが殺されちゃう」
ぽつりと呟いた。
諦めたような、何かに押しつぶされそうな、そんな声だった。
そこでやっとスネイプがマントから何かを取り出す。
「日本の魔法省が」
言いながら、取り出した羊皮紙巻を広げて、宙に浮かせた。
そこには何やらが事務的に書かれていて、最後に流麗な文字でサインがしてあり、そのあとにいかにも公式文書らしい印鑑が押されていた。
ユリにはサインの文字が漢字であるとわかった。
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作者名：にはろ | 作成日時：2023年2月18日 22時
