【HP】血は水よりも濃し【アズカバンの囚人】 (ページ4)

今日:2 hit、昨日:29 hit、合計:163,646 hit

ページページ4

.

はっとして顔をあげた。

車内が明るく戻っている。

「食べなさい。気分が良くなる」

目の前に差し出されたのは、大きく割られた板チョコだった。

「あ、……」

ありがとう、と言いかけてせき込む。

煙が入ったようだった。

この汽車は、燃えてなんかいないのに。

「ありがとうございます」

言い直して、それを受け取る。

くたびれ先生……ルーピン先生は、そのまま通路へ消えた。

運転手と話してくると言っていた。

ユリはチョコレートを一口かじる。

たしかに、少し気分が明るく戻った。

嫌な夢を見たようなそんな感じで、落ち込んでいたのだと、同時に気づく。

やがてホグズミード駅に着いて、汽車を降り。

馬車に乗り換えた。

その馬車は不思議なことに、ユリにしか見えない馬が引いていた。

ハーマイオニーは去年きょとんとしたし、ハリーやロンにも見えないようだった。

馬車を降りて、次の馬車でルーピン先生が降りてきたので、話しかけてみた。

「この馬は、見える人と見えない人がいるんですか？」

ルーピン先生の反応は、去年のスネイプとはまったく違ったものだった。

少し目を見開いてユリをまじまじと見つめた後、ふわりと笑って言う。

「セストラルはとても頭が良い動物だ。けれど穏やかで優しい性格だから、怖がらなくても大丈夫」

答えになっていなかったが、ユリはそれ以上聞かなかった。

この手のはぐらかしは父や祖父との会話で慣れっこだ。

子どもには知らなくていいことや知らない方がいいことがあるのを、ユリは知っていた。

彼がはぐらかしついでにユリの胸元に視線を向ける。

「すてきなペンダントだね」

「あ、うん。とうさんが誕生日にくれました」

「この花はリリーかい？」

「うん。私ユリって言います。リリーの意味なの」

ルーピン先生はまた少し目を見開いた。

ユリは首を傾げる。

「あ、いや。友人にリリーという名前の女性がいるんだ。そうか。素敵な名前だね」

.