【HP】血は水よりも濃し【アズカバンの囚人】 (ページ22)

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「バタービール二つください。あの、今日一日ここにいてもいいですか？」

「ええ、いいですよ。お二人？そっちの端の席をお使いなさいな」

ユリはマダム・ロスメルタに笑顔で会釈して、ハーマイオニーを促しその席に座った。

いつも満席のこの店も、昼時より大分早いので空いている。

二人の他には、レイブンクローの先輩のカップルが奥の席に座っているのと、地元のおじさんが入り口近くで蜂蜜酒を飲んでいるだけだった。

流石のハーマイオニーも、席に着いてすぐ教科書を広げるのは野暮だと思ったのか、ユリのおしゃべりに暫く付き合ってくれた。

なんてことない話だ。

二人はもともとマグルの世界の出だから、最近の流行とか、どの俳優が好きとか、魔法に囲まれた学校ではなかなかしない話をした。

「ユリの好み、なんとなくわかるわ。黒い人が好きなのね」

「うーん、たぶんそう？」

「ああ、ユリ、口元、泡がついてるわ。ふふ」

ハーマイオニーは、その時やっと初めて笑顔を見せた。

そして時計を見て、少し目を見開く。

いつの間にか、12時半だった。

我に返って周りを見回せば店内は満席で、随分長い間話し込んでしまったのだとわかる。

ユリと話すといつもそうだった。

時も状況も忘れてしまうのだ。

「どうしましょう！私、まだ教科書を開いてすらいないわ」

そう悲鳴を上げたハーマイオニーを抑えて、内心ほくそ笑みながらユリは言う。

「まあまあ。ご飯食べてから考えよ？あ、ローストビーフサンド二つください」

またユリのペースに流され、昼食まで終えてしまったことに気づく。

すると今度は眠気がやってきて、昼寝までするつもりは無いわと、自身の手の甲をつねった。

しかしユリが天使のような、悪魔の笑みを浮かべて囁く。

「寝ちゃいなよお。少ししたら起こしたげるよ？」

「……じゃあ、少し」

眠くて判断力が低下していた。

当然、ユリの「少し」とハーマイオニーの「少し」はまったく違っていて。

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