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「それは色黒の私への当てつけですか?生まれた瞬間から山で育ち?太陽に焼かれみかんを食いながら生きてきましたが?なんで再生って日焼けにまで作用してくれないんだろう。見えるかこの黄色い腕。黄色い服着ると同化するんだが。白い服着ると際立つんだが!?」
無惨が八つ当たりなら、Aも八つ当たりだった。
自分以上にくだらない理由で自分以上に怒り返すAに、無惨は「なんか……もういいや」の感情を覚え、手を離した。
「ギャッ」
間抜けな声と共に地面に落ちたAは、立ち上がりながら砂を払う。
そして、無惨を振り返って言った。
「お腹空いた。もんじゃ食べようよ」
「もんじゃ?」
「あ、文字焼きっていうのかな。母ちゃんよく出してくれたよ」
Aは無惨の手を引いた。
彼の肩がぴく、と揺れる。
振り払いはしなかった。
引かれるがままAに着いて行く無惨は、さながら娘におねだりをされる父親だった。
「今日の変装のテヱマは何ですか」
「商社の営業……何を笑っている」
答えたらげらげら笑われたので、無惨は眉を寄せた。
そして、思い出したように我が子に問いかける。
「耳に花札のような飾りをつけた鬼狩りを見なかったか」
「え?……あー、あの人鬼狩りだったんだ。明らかに鬼連れてたけど」
「どこで見た?」
「奥山劇場の前で、なんか走ってきてぶつかった。さっき向こうのうどん屋で見たけど、もういないと思う」
飴細工落としたし、と湧き出す怒り。
対して無惨は無言で前を向いた。
「あ、あそこ」
辿り着いたのは、鉄板を出している屋台。
無惨とAは並んで座り、Aが注文した。
「えっ、もんじゃに咖喱入れんの?」
「うまいよ」
「じゃあそれとー……豚!」
「はい、待ってね」
どうぞ、と出された器に、無惨は目をぱちくりとさせた。
初めて見る何か……吐瀉?
それをAが混ぜだすものだから、無惨は顔を顰めた。
「何その顔」
「それを私に食わせる気か」
「文句は食ってから言え偏食家」
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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時