女好き男と男好き女〔森山由孝〕No,3

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息を切らして入ってきた笠松君を見て目を細める。
傍にあった椅子を勧めれば、彼は律儀にお礼を言ってその椅子に座った。
それからは、しんと教室が静まり返る。

彼が何か話そうと口をパクパクとはさせているが、待たずにまた弁当を食べていく。
食べ終わって、箸をしまい、パチリと箸の入れ物を閉じた。

笠松「・・・なんで、あんなことをした。」

小さくも教室内に響いたその言葉に、手を止める。
見れば、笠松君は大きな黒い眼で私を真っ直ぐに見ていた。
それは、怒りからか熱を感じるもの。ここ最近の空虚な目よりも随分とマシな目だ。

瞳「・・・・。ごめんなさい。貴方の先輩だとは思っていなかったの。
随分とチャラチャラしてるから、この人たちならお金を持ってるって思ってね。
思わず遊んじゃった。3年生だったのに、申し訳ないことをし、」
笠松「そういうことを言ってるんじゃねぇ！！！」

思いっきり叫んだ笠松君を見て口を閉じる。
そして業とらしく静かにと、唇に人差し指を当てた。
それに笠松君はすまんと一言いってから、溜息をつく。

笠松「咲夜が自分を傷つけてまで、俺への目を咲夜に向けるのは間違ってんだろ…。」
瞳「何それ。自意識過剰にもほどがあるわ。私は、私のためだけに、」
笠松「っ！俺は！！」
笠松君はそう叫んで、また口を閉じる。
また静まり返ることとなったが、話す気にはなれず、彼が話し始めるまで待つ。
遠くでチャイムが鳴ったような気もするが、気にはならなかった。

笠松「・・・俺は、もう、バスケをやる資格がないの、に。」

搾り出されただろうその言葉は随分と弱弱しかった。
それに「そう。」と返せば、驚いたように笠松君は顔を上げる。

笠松「とめ、ないのか？」
瞳「どうして私が貴方を止めなきゃならないの？」
笠松「っ」
瞳「貴方の好きにすればいい。でもね、1つだけ言えるのは、
・・・バスケに資格もクソもないわよ。」
彼を挑発するようにそういい捨てれば、見せ付けるように足を組む。
それに彼は露骨に目を逸らした。それに私は笑ってみせる。

瞳「他の人は知らないけれど、貴方のチームメイトが。信頼できる彼らが、
一度でも貴方に資格がないと、止めろといった？
もし彼らに申し訳がないと思って止めるんだったら、逃げるのと同じこと。
バスケから逃げ出した弱者よ。そんな心持の人がいなくなるんだったら、
バスケ部の人はさぞかし喜ぶでしょうね。」

その言葉に彼はキッと睨んでくるのだった。

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