【WT】雲のように白く【短編集】 (ページ14)

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｢あの…！｣

『はい？』

｢違ったら申し訳ないんですけど…雨の日、歌ってますよね？｣

勇気を振り絞って彼女に声をかけると、大きな目を開いて、頬を赤く染めていた。

『ごめんなさい、聞こえてましたか…？』

｢はい、部屋も隣ですし…｣

『雨なのでてっきり誰にも聞こえないかと思ってました…お恥ずかしいです』

そう言ってお隣さんは困ったように笑った。立ち止まって会話していたのが少し申し訳なくなり、足を進めながら話を続ける。

｢そういえば自己紹介してませんでしたね、きんときです｣

『Aです、よろしくお願いします…！』

｢よろしくお願いします｣

頭1つ分下にある彼女の顔を見て自己紹介すると、満面の笑みを浮かべていた。

今まで1人で歩いてきたマンションの廊下を初めて誰かと歩いた。いつもは1人分しか響かない足音も、今ではAさんの足音と会話が響いている。

｢歌うのがお好きなんですか？｣

『そうなんです、でも忙しくてカラオケ行ったりできなくて…』

｢実は僕も歌うのが好きなんです｣

『そうなんですね！なんか嬉しいです』

｢よかったら今度一緒にカラオケ行きませんか？｣

Aさんの歌声が素敵なので、と建前を伝えるが、本当は恋に落ちてしまったのは伝えられない。