【WT】雲のように白く【短編集】 (ページ13)

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雨の歌姫 / kn ページ13

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⚠︎kn視点

雨の日、決まって隣のベランダから美しい歌声が聞こえてくる。

夜の10時頃、灰色の雲から雫が降り注いでアスファルトにぶつかる。そんな音の中、一筋の光が雲の間から落ちるように柔らかく丁寧な声が聞こえてきた。

ここ最近は雨続きで気分が下がっていたが、彼女の歌声を聞くと元気が出る。

｢今日は夏曲か…｣

どんよりした天気も吹き飛んでいきそうな明るさを感じる。

今日も彼女の歌声をBGMにコーヒーを飲んでいると、ふと彼女のことが気になった。

普段何をしているのか、好きな音楽とか、何故雨の日だけ歌うのか。

僕も歌うのが好きなんです、と自分もベランダにでてしまおうか迷って、立ち上がってベランダに繋がる窓の前に立つ。…が、ガラスに反射する自分を見てハッとした。

｢いやいや…変な人すぎるでしょ…｣

そう思ってソファーに戻り残りのぬるいコーヒーを口に流し込むと、彼女の声がパタリと消えた。

悩むくらいならベランダに出てしまえばよかった、と後悔しても遅いのだ。

手元にあるスマホで天気予報を調べてみるが、しばらくは晴れが続くらしい。

早く雨が降りますように、と願ってマグカップを洗った。

翌日、久しぶりに見る太陽を見て嬉しくなる反面、雨は降らないのが分かり悲しくもなった。

日光を浴びるために散歩に出かけようと思って準備をして玄関の扉を開けると、ちょうど女性が前を通った。

｢こんにちは…｣

『こんにちは…！』

少しぎこちない笑顔で挨拶をすると、目線がぱっちりと合って挨拶が返ってきた。そして俺はこの人がお隣さんであることを確信した。

柔らかいけど芯があって、温かい光のような声を聞いて確信した。

そしてこのまま声を掛けようか再び迷っている。変じゃないだろうか…いや変だろ…と脳内会議を開きながら考えていると、ここしばらくの天気予報が頭に浮かぶ。