32話 ページ33
織田作の今にも消えそうな細い声が聞こえ、俺と太宰は織田作に集中する。
再度傷をよく見てみると、胸を貫通し、床に血溜まりを作っているほどだった。
「織田作はもっと賢いと思っていた。」
俺が震える声を抑えそう言うと隣で同じようになってる太宰が口を開いた。
「こんなやつに付き合って死ぬなんて莫迦だよ。」
「ああ。」
織田作は俺たちを見て微笑んだ。その表情には支払った対価に見合うことだけの事を成し遂げた人間だけが浮かべる、ある種の満足感が宿っていた。死んでいく俺の配下達もこのような表情をしていた。
「太宰、A……云っておきたいことがある。」
今にも途切れそうな織田作の声に太宰は過剰に反応した。焦っているのだ。
俺は下唇と拳を強く握りしめるので精一杯だった。
「駄目だ。やめてくれ、まだ助かるはず」
「太宰」
俺は太宰の肩に手を置き、首を横に振った。太宰の顔が一瞬絶望に染った。
その瞬間、織田作が濡れた手で太宰の手を握った。
「暴力と流血世界に居ても生きる意味は見つからない。自分でわかってる筈だ。人を殺す側になろうと救う側になろうとお前の頭脳の予測を超えるものは現れない。」
俺は織田作の言葉に納得した。確かにそうだ、太宰は頭が良すぎて、それでいていつも瞳の奥は孤独だ。太宰は真っ直ぐな目で口を開いた。
「なら、私はどうすればいい?」
そんなの、決まっている。恐らく今の俺と織田作が考えていることは同じだ。人を───
「人を救う側になれ。その方が幾分か素敵だ。」
「何故分かる。」
太宰は織田作に問う。その声は酷く震えていたが、もう気にしていられない様子だ。
織田作は目を瞑り言った。
「分かるさ、誰よりもわかる。」
その言葉から織田作は過去の自分の経験から話していることに気がついた。
太宰もそれに気づいたらしく、頷いた。
織田作は微笑み、俺の方を見て濡れた手で今度は俺の手を握った。
「それと……A。お前にも云っておきたいことがある。」
「ッなんだ……」
俺は織田作の言葉を聞いた瞬間、目を見開き、今まで堪えていたものが一つ、零れ落ちた。
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らずぴす(プロフ) - *ふわ*さん» ありがとうございます!とっても嬉しいです!!更新頑張ります! (2019年5月1日 15時) (レス) id: cd5ea6550c (このIDを非表示/違反報告)
*ふわ* - 初コメ失礼致します!主人公くんの性格その他もろもろ込みでこの作品のファンです!!更新頑張ってください!応援してます!! (2019年4月30日 20時) (レス) id: 18cb4fa1f4 (このIDを非表示/違反報告)
らずぴす(プロフ) - 薙(nagi)さん» ありがとうございます!そう言って貰えて嬉しいです! (2019年4月28日 21時) (レス) id: cd5ea6550c (このIDを非表示/違反報告)
薙(nagi) - 好きです((設定とか主人公の立ち位置が好みです!もう産まれてきてくれてありがとう!(?) (2019年4月28日 19時) (レス) id: ea3376027d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らずぴす | 作成日時:2019年4月19日 19時