9*そらる ページ37
だから、私は訴えた。
『お願いそらる先輩、やめて、っ…こういうこと、絶対しちゃだめです…!』
「…どうして?」
冷たく重い声に、ハッと顔をあげる。
そらる先輩の目は、急激に冷たくなっていた。
口元には酷薄な笑みすら浮かべている。
身を強張らせると、そらる先輩はやさしく言った。
「A、俺Aのこと好きなんだ。大好きだ。ずっと一緒にいて、ずっとずっとずっと傍においておきたいくらいすき。ここまで人を好きになったのは初めてなんだよ」
『そらるせんぱ、』
「だからね、邪魔なものは無くしておこうと思って」
ね?と。
小さな子供に言い聞かせるように微笑むそらる先輩は、私の知っているそらる先輩で、
けれど、私の知らないそらる先輩だった。
『ちが、違いますそらるせんぱ、』
「…A…?どうして、泣いてるの?」
すとんと座り込んだ私に、そらる先輩もかがんで私の頬をぬぐう。
私の頬は、知らないうちに濡れていた。
きゅっと唇を噛みしめ、そらる先輩の目をしっかり見る。
『好きなんです、っ』
「…!」
口にした言葉は、ストレートなそれだった。
そらる先輩の瞳に、歓喜が閃き、表情が嬉しさに歪む。
私は続けた。
『お願いですそらる先輩、だから、こんなことやめて、っ…ください…!』
最後のほうは涙が滲み、小さくなっていった。
そらる先輩は、ぎゅっと私を抱きすくめた。
「俺、自覚してるんだ、自分がオカシイって。
でも、とめられないの。自分じゃ全然止まらなくて、こんなんじゃ誰も俺のことなんか愛してくれなくて」
『じゃあ、私が止めます』
私もそらる先輩の背中に腕を回す。
そらる先輩が、抱きしめる腕に力をこめたのが分かった。
『そらる先輩が自分で止められないなら、私が止めます。いつまでもそらる先輩の傍にいて、いつまでもそらる先輩のこと支えます。
そらる先輩のこと、私がたくさんたくさん愛します』
「Aッ…!」
そらる先輩の声が掠れた。
私は泣いた。
二人抱き合って、路地裏で。
近くに転がっている鞄には物騒なものがたくさん入っているわ、私の靴紐はほどけているわでロマンチックの欠片もなかったけれど。
下手なロマンチックより、私は誓った。
彼が愛を求めるならば、私はそのぶん愛を与えよう。
彼が愛してくれるならば、私はその倍彼を愛そう。
気づいたらもう、離れられなかった。
それなら、
―…それなら、貴方と共に。
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私の前で語尾に矢印をつけないでください - 完成度高過ぎて🤦🤦 (2023年1月16日 23時) (レス) @page50 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
meal - なんだか深い小説でした 作者様のあとがきに色々と考えさせられました (2017年8月29日 19時) (レス) id: 94e05bb702 (このIDを非表示/違反報告)
みみね - カッコいい小説でした。 (2017年5月12日 20時) (レス) id: 4825a094c8 (このIDを非表示/違反報告)
さやえんどう(プロフ) - ナノハナさん» 久しぶりに見たらコメントが来ていたので驚きました。ありがとうございます!とっても嬉しいです! (2016年10月12日 17時) (レス) id: b6c08d2ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ナノハナ - こんにちは、この小説を読みました。どのお話もすごく良かったです。特に狂愛のお話はあまりにも切なくて泣いてしまいました。 (2016年10月8日 13時) (レス) id: edb9894186 (このIDを非表示/違反報告)
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