7*そらる ページ35
―――…夜。
部屋で宿題を済ませた私は、不安に心が揺れていた。
いつも、この時間帯にはそらる先輩がメールやら電話やらすごくしてくる時間だ。
それなのに、今日はこない。
不安だし、少しだけ恐怖していた。
…そこに、着信メロディーが響く。
『―…っ!』
表示は、
“先輩”。
登録したときに、万が一人に見られても特定できないような名前にしたのを憶えている。
そらる先輩から、だった。
今日のことについて文句を言われるのだろうか。
もしかして嫌われてる?
震える指で通話をタップする。
―――…すると、
“もしもしA!”
『そ、らる先輩…』
いつも通り、いや、いつもより明るいそらる先輩の声が聞こえた。
安心して、思わず机に突っ伏してしまう。
よかった、嫌われてない。
こうして、きちんと電話もしてくれた。
しかし、次に聞こえた言葉は、そんな私の安心を打ち砕くものだった。
“今ね、昼休みに邪魔した女の家に向かってるんだ。そいつ、排除してやるつもり!”
その言葉に、背筋に戦慄が走った。
ナニヲ イッテイルノ?
震えだした足に力をこめる。
『そらる先輩、何言って、』
“だって俺、Aと話したかったのに…”
『わっ、私だって話したかったです!でも女子のグループが、』
けれど、声の震えは隠せなかった。
そして、いいわけじみた自分のそれに嫌悪感がこみあげる。
違う、こういうことを言いたいんじゃない。
そらる先輩は、なおも明るい声で続ける。
“でしょ?だからね、俺らを邪魔するものは排除するべきじゃない?…大丈夫、誰にもバレないようにうまくやる。それに、俺Aのためなら何年も刑務所に入ったっていいよ”
ゾクリ、悪寒が走った。
オカシイ。
この人は、オカシイんだ。
それは心のどこかで気がついていたことで、けれど目を背けていたことで。
そらる先輩は、電話の向こうでクスクスと無邪気な笑い声を出す。
“じゃあ、Aまた明日ね。明日、学校来てなくてもAが気に病む必要も心配もしなくていいからね”
ああ、そうか。
そらる先輩は、“休んでも私に心配させたくなくて”電話したんだ。
それは究極にやさしくて、そして究極に狂っている。
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私の前で語尾に矢印をつけないでください - 完成度高過ぎて🤦🤦 (2023年1月16日 23時) (レス) @page50 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
meal - なんだか深い小説でした 作者様のあとがきに色々と考えさせられました (2017年8月29日 19時) (レス) id: 94e05bb702 (このIDを非表示/違反報告)
みみね - カッコいい小説でした。 (2017年5月12日 20時) (レス) id: 4825a094c8 (このIDを非表示/違反報告)
さやえんどう(プロフ) - ナノハナさん» 久しぶりに見たらコメントが来ていたので驚きました。ありがとうございます!とっても嬉しいです! (2016年10月12日 17時) (レス) id: b6c08d2ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ナノハナ - こんにちは、この小説を読みました。どのお話もすごく良かったです。特に狂愛のお話はあまりにも切なくて泣いてしまいました。 (2016年10月8日 13時) (レス) id: edb9894186 (このIDを非表示/違反報告)
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