4*そらる ページ32
「おいし?」
『おいしいですっ』
こくり、頷くと、そらる先輩は嬉しそうに自分のクレープを食べた。
私は口の中のクレープを飲み込んでから、そらる先輩に言う。
『すみません、奢ってもらっちゃって』
「ああ!ううん、いいんだよ。俺が勝手に奢ったの。ほら、男だけじゃこういうクレープとか買いにくいでしょ?Aとじゃないとムリかなって」
その言い方から、ふっと、先輩彼女いないんだ、と考える。
…なっ、何を考えてるんだ私は。
クレープ、甘い。
そらる先輩は、私が食べ終わるまで待っていてくれて。
慌てて食べようとする私に、「あせらなくていいから、ほら、ゆっくり」と言ってくれた。
ほんとかっこいいな、先輩。
そして、私が食べ終わったころ。
「よし、帰ろっか。送るよ」
『えっ、そんな!ご迷惑ですし大丈夫です、一人で帰れます』
「駄目だよ。女の子なんだから」
ね、と頭に手を置かれる。
こんなこと、されちゃったら。
『…じゃあ、お言葉に甘えて』
こくり、頷くと、そらる先輩は微笑んだ。
――――…家の前。
『ここです、ありがとうございました』
「ううん、一緒に帰れて楽しかった」
『私もです!』
ぱっと笑顔でそう言うと、そらる先輩はちょっと目をそらすと、決心したかのようにもう一度私を見て。
「ねえ、あのもしよければなんだけど、
…連絡先、交換しない?」
その申し出は、夢みたいな一日の中でも、とびきり夢みたいなできごとで。
思わず固まる私に、そらる先輩は慌てたように言った。
「いやっ、嫌なら無理強いしないんだけど!その、…メールとか、電話とか、できたらいいなって」
『いっ、いいんですか!?』
私がそう聞くと、そらる先輩は「もちろん」と頷いた。
私は、慌てて携帯を出す。
そらる先輩も嬉しそうに携帯をだした。
登録してる最中も、心臓の音が聞こえてないかとか、もういっぱいいっぱいで。
でも、そらる先輩とのこの時間は夢じゃないんだとか思って、
それで、またいっぱいいっぱいで。
「じゃあ、また明日」
『はい、また明日』
そらる先輩が帰っていくほうを見ていると、来た道を戻っていっている。
…家、こっちの方向じゃなかったんだ。
きゅん、と高鳴る胸。
期待しちゃいけないなんてことは分かってる、でも。
『…恋、しちゃうよ』
夜になりかけの空気に溶けた声は、自分のじゃないくらいに甘みを帯びていた。
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私の前で語尾に矢印をつけないでください - 完成度高過ぎて🤦🤦 (2023年1月16日 23時) (レス) @page50 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
meal - なんだか深い小説でした 作者様のあとがきに色々と考えさせられました (2017年8月29日 19時) (レス) id: 94e05bb702 (このIDを非表示/違反報告)
みみね - カッコいい小説でした。 (2017年5月12日 20時) (レス) id: 4825a094c8 (このIDを非表示/違反報告)
さやえんどう(プロフ) - ナノハナさん» 久しぶりに見たらコメントが来ていたので驚きました。ありがとうございます!とっても嬉しいです! (2016年10月12日 17時) (レス) id: b6c08d2ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ナノハナ - こんにちは、この小説を読みました。どのお話もすごく良かったです。特に狂愛のお話はあまりにも切なくて泣いてしまいました。 (2016年10月8日 13時) (レス) id: edb9894186 (このIDを非表示/違反報告)
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