23*まふまふ ページ24
―――…かなりの、時間がたった。
病室に戻ると、Aの寝ている真っ白なベッドのわき腹のあたりが真紅に染まっていた。
傷口を見ると、――――…やっぱり、まふまふから受けた傷をカッターで開いている。
しかも、かなり深い傷。
相当の痛みが伴ったのか、それともあまりの激痛に意識を失ったのか。
それは、今や少しも分からない。
でも、まふまふのところにいきたい、という精神力がこれをさせたのだろうと容易に想像がついた。
彼女の顔色は白い。
一応首筋に指を当ててみたものの、そこに感じるはずの鼓動は無く。
彼女の命が、もうすでに消え去っていることを嫌でも自覚させられた。
けれど、もうあかない瞳を固く閉じた彼女の顔は、私がいつ見た彼女の顔よりも、
――――…そう、今迄で一番幸せそうで。
すぅ、と頬を伝うナニカ。
触れると、―――…ぬれている。
そこで、やっと自分が泣いているのだと気づいた。
間接的にとはいえ、友を殺した私に泣く資格など無い。
――――…けれど、例外がある。
それを、彼女が望んでいたら?
そうしたら、カッターを意識させた私のやったことは何なのだろう?
もしかしたら、これが私の、…「まふまふ」と出会わせ、とめられなかった私の、唯一の罪滅ぼしかもしれない。
幸せそうなAの顔に、話しかける。
「A、私幸せだったよ。…貴方と会えて、話して、一緒に帰って」
ぽたり、シーツに染みができる。
「――――――ありがとう…」
それを口にした瞬間、わああ、と声が漏れた。
もう限界だった。
Aの冷たくなり始めている体にすがり、泣き崩れる。
どうして、どうしてどうしてどうして。
どうしてこんなことになってしまったの?
Aにカッターを気づかせたことは後悔していない。
そうだとしても、感じないわけにはいかない。
こうなる前にとめることはできなかったのか。
運命の歯車、それを狂わすことはできなかったのだろうか。
―――…そんな中、ふと思い立つ。
運命の歯車は、もうすでに狂っていたのかもしれない。
私は、Aに。
…出会っちゃいけない、人間だったの―…?
―――――…A、兄さん。
それと、この世界の皆さん。
――――――…純愛って、愛って、結局何なんですか?
偽りの、歯の浮くようなせりふを並び立てるのが愛ならば。
これこそ本当の、正真正銘の、純愛なのかもしれない。
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私の前で語尾に矢印をつけないでください - 完成度高過ぎて🤦🤦 (2023年1月16日 23時) (レス) @page50 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
meal - なんだか深い小説でした 作者様のあとがきに色々と考えさせられました (2017年8月29日 19時) (レス) id: 94e05bb702 (このIDを非表示/違反報告)
みみね - カッコいい小説でした。 (2017年5月12日 20時) (レス) id: 4825a094c8 (このIDを非表示/違反報告)
さやえんどう(プロフ) - ナノハナさん» 久しぶりに見たらコメントが来ていたので驚きました。ありがとうございます!とっても嬉しいです! (2016年10月12日 17時) (レス) id: b6c08d2ce6 (このIDを非表示/違反報告)
ナノハナ - こんにちは、この小説を読みました。どのお話もすごく良かったです。特に狂愛のお話はあまりにも切なくて泣いてしまいました。 (2016年10月8日 13時) (レス) id: edb9894186 (このIDを非表示/違反報告)
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