帰省７ ページ25
.
シャングリラの脇を通り抜けて数分も歩けば花街は途端に姿を変える。
立ち並ぶ破屋に物乞いと梅毒の夜鷹。それらよりいくらか小奇麗ではあれど小屋のような建物がノアの実家である。
居間と寝室が1つずつのみの狭い家の扉を開ければ、植物や薬が混じった独特な匂いの中で背中を丸めた初老の男が薬草をすり潰している。
｢おかえり、遅かったね｣
｢おやじ……ただいま｣
何年も音沙汰なく帰宅しなかった娘への挨拶とは思えぬ。
何もなかったかのようにノアに茶を出し、ノアが今までに起こったことをぽつぽつと語るのをたまに相槌を打ちながら静かに聞くだけだった。
夜になると畑でとれた野菜を使った粥を夕食にしてそのまま眠ることにした。入浴は明日、シャングリラに寄らせてもらうつもりだ。小さなベッドに横になればノアはすぐに微睡む。暖炉で薪が燃えていく音が心地よい。
｢後宮とな。因果だねぇ｣
おやじの声はノアには届かず空中にくゆる。
三日間の里帰りはあっという間だった。
懐かしい面々に会えたことで後ろ髪を引かれる思いで花街をあとにした。兵団での業務を放棄するわけにもいかないし、身元引受人のテオとの契約に背いて迷惑をかけてはいけない。何よりこのまま留まればやり手婆に初売りに出されてしまう。それは何としてでも阻止しなければならない。
約束通りいい夢を見れたらしい蕩け切った表情のテオといつにもまして肌つやのいい美人妓女を見ると、テオには過剰に報酬を払いすぎたと後悔した。一度天上の蜜を味わってしまえば地上には戻れまい。自然の摂理である。きっと彼は今後も生かさず殺さず搾り取られることだろう。
そんなわけで兵団本部に帰ってきたのだが―
土産を持って団長を尋ねるとやたらとこちらを睨んでくる目つきの悪い男がいる。休暇の申請は班長にすることが原則だが、本人が不在だったのだからしょうがない。その点はエルヴィンから伝えられているはずだ。
考えても当てがないので適当に挨拶を済ませ部屋を出ようと踵を返すと後ろから爪が食い込みそうな勢いで肩を掴まれた。
｢話がある｣
続く (更新停止中)
お気に入り登録で更新通知を受け取ろう
←帰省６
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 127人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りこまる - あと気になったんですけど、主人公の容姿ってどんな感じですか✨ (1月12日 2時) (
レス) @page18 id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
りこまる - コメント失礼します、少し遅れましたけど新年あけましておめでとうございます，小説書くのお上手ですね、応援しまいます！ (1月12日 2時) (レス) @page18 id: 9a77c9521c (このIDを非表示/違反報告)
寿司(プロフ) - こめつぶさん» コメントありがとうございます。お褒めの言葉、とても励みになります。これからもよろしくお願いします。 (12月14日 23時) (レス) id: 43549444da (このIDを非表示/違反報告)
寿司(プロフ) - 琴さん» コメントありがとうございます。うわー…完全に捻じれていました、ご指摘いただきとても助かりました。今一度推敲を徹底しますね。 (12月14日 22時) (レス) id: 43549444da (このIDを非表示/違反報告)
琴(プロフ) - コメント失礼します、この素敵なお話に出会えて幸せです、これからの展開を楽しみにしています！(余計だとは思いますが宴10のページ色的にジゼル様が火とルビーでオディリアが風とエメラルド…？あれ…？と思っております) (12月14日 22時) (レス) @page10 id: 29906faa0b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：寿司 | 作成日時：2023年11月29日 18時
