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「…あ」

教室の隅の机に突っ伏してクカクカと眠り続ける場地圭介は、珍しくヤンチャな方の場地圭介だったこともあってか、その光景を見た時になんとも言えない既視感を感じた。
だが、すぐにそれがいつのことだったか思い出し、思わず声が漏れた。

…入学式だ。
そうだ、入学式だ。懐かしい!

同じ教室の同じ先、同じ寝方。
自分でも何故かわからないが、周りに誰かいないことを確認して、場地圭介のいる教室に入り込み、ゆっくりと近づく。

…ホームルーム終わるまで起きなかったんだっけ。あの時。

あの日のことを少しずつ思い出しながら、近づいて、ゆっくりと場地圭介の前の席に腰をかけた。
キシキシと椅子が軋む音がして、そんな音のせいか

「…オマエ…」

と場地圭介が目を覚ました時には血の気が引いた。

この時やっと我に帰って、キモ!私何してんの。馬鹿!と自分の行動を戒めるも、そんなのはもう遅かった。
夏の夕日に照らされて、オレンジ色の教室の中眠る猫のような場地圭介が、なんとも見ているだけじゃ物足りないような気がしてしまったのは、気の所為だと思いたい。

「俺になんか用か」

幸いにも、前の席に座って自分を見ている私に興味を持つどころか、まだ寝たそうに伸びをする場地圭介。あの日から黒い野良猫のようにしか見えない。
良かった…と一息ついて、言葉を選ぶ。

「学校、終わったよ。たまたま廊下通ったら寝てたから…」

「そうか。はえーな」

この調子だとずっと寝ていたのだろう。
場地圭介が中学校を卒業できる日は来るのだろうか。

そんなことを思いながら、恥ずかしさのあまり直視できなかった顔を横目に見ると、眉毛の上に赤いかすり傷のようなものが見えた。あまりにも痛々しいそれに、「えっ!それ…」と声を上げると、場地圭介は鬱陶しそうにわたしを見た。

「眉毛の上のそれ、痛そう」

「あーこれか。今日ここに来るまでに絡まれたこうなっちまった。メガネも割れたしよォ。ついてねーな」

サラッととんでもないことを言う場地圭介に軽くドン引きするも、最近の場地圭介の落ち着きようで忘れていたが、普段は特攻服にバイクでいるような少年だったことを思い出す。
見れば見るほど痛そうなその傷口を見て、膿んだらもっと痛いだろうなと思い、急いでカバンの中を漁って、絆創膏を取り出した。

「これ、付けてあげる」

「いらねぇ。ダセェよそれ」

嫌がる場地圭介に、負けじと「バイ菌入るよ!」と言い返した。

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作者名:ポット | 作成日時:2021年9月12日 17時

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