制服を脱がして、裸の心で【場地圭介】 (ページ3)

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そして、その場地圭介とのはじめての会話の後、爆速で部屋に帰った私は母に「場地圭介、下の階の場地さんって知ってる！？」と慌てて聞いた。
母は知らなかったの？とでも言うように、「2年前かくらいに越してきた子よ。中学からはAと同じになるわねーって話したじゃない」と、確かに聞き覚えがあるような話をされた。
まさかあの話の少年が場地圭介だなんて…と私は震えがあるも、「奥さんいい人よ。シングルマザーみたい」と、なんだか母同士はまぁ仲が良かったらしく、場地圭介が呟いていた「あーなんかオフクロが言ってた気がすんな」という言葉の意味を漸く理解した。

そして、なんかの偶然なのか、必然なのか。
あの日からよく場地圭介を団地内で見るようになった。(相変わらず学校には来ない)
ぶたれないかとヒィヒィしている私と裏腹に、何故か想像よりもずっと呑気に「よぉ」と声をかけてくる場地圭介はいつも、"新たな方"の場地圭介だった。
髪をピチッと分け、瓶の底のような眼鏡をしていても、なんだか綺麗な顔してない…？と思う時が何度かあったが、気のせいか。と思って見て見ぬふりを何度かした。

しかし、初対面から1ヶ月くらいした時の事だろうか。ついに呼び止められた。

「オイ」

「…はい」

今日は"以前の"場地圭介の姿で、土まみれになった特攻服を見に纏い、団地の下のベンチに腰掛けていた。

「お前、いつもどこ行ってんの」

場地圭介と会う日は大体一度家に帰って塾に行く日だった。そして声をかけられたその日もたまたま塾の日だった。
場地圭介の中で私は、パンパンに教科書を詰めたリュックを背負って猫背で歩いているイメージでもあるのだろうか。だから「いつも」なのだろうか。
場地圭介に殴られたらこれで身を守ろう…と、塾の荷物が最近増えたのは確かだった。

「塾です」

「ベンキョー？」

場地圭介の問いかけに素早く頷くと、場地圭介は何故か「ちょうどいい」と呟き、ポッケの中をゴソゴソと弄って、ぐちゃぐちゃになった紙切れを私に向かって突き出した。
何だそれ、ゴミじゃん。と思った私の考えに気づいたのか「ゴミじゃねえ」と先に言われた。

「…何ですか？それ」

「見えねーならこっち来いよ」

場地圭介に言われてハッとするが、初めて話したあの日から、場地圭介と私の間には2メートル以上距離があった気がする。

「…俺が、怖いのか？」

その言葉に間違いは無かったが、眉間に皺を寄せながら言う場地圭介に抗える訳もなかった。