制服を脱がして、裸の心で【場地圭介】 (ページ2)

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「お前、見たことあンな」

さっきの真面目な姿とは打って変わって、特攻服のようなものに身を包み、黒くて長い、男の人にしては綺麗な毛並みのロングヘアを掻き上げる仕草は妙に妖艶で。それであって暴走族そのもので。
バイクに跨りながら眉間に皺を寄せる場地圭介をただただ見つめることしかできなかった。

「…なんか言えよ」

「はいっ！」

驚きから勢いよく返事をしてしまった私を見て、場地圭介はさらに眉間に皺を寄せ「ヘンだなお前」と呟く。
…あなたの方がヘンですよ。と言える訳もなく、場地圭介と正反対の、カチッと制服を着こなし、黒いポニーテール、特に周りの学生から浮くこともないモブ中のモブの私は、今まででおそらく一番の頑張りで口を開いた。

「去年、席…前だったの…覚えてます？」

「覚えてない」

私の質問に即答で答えた場地圭介は、悪気は一切なさそうだった。
…見たことあると思ってくれたからいいや…
自分の陰具合にトホホと笑いながらも、この金輪際一切関わりたく無いと思っていた場地圭介が、まさか自分の一個下の部屋に住んでいるとは誰も思うまい。
とんでもないドッキリに、今更心臓が飛び出そうになる。

「名前は」

当たり前ではあるが、そんな私と裏腹に落ち着いている場地圭介は、私に名前を聞いた。

「橋本A」

「橋本…俺ン家の上か」

「そうです。そこ」

私が目の前の塔の2階の部屋を指さすと、場地圭介も眩しそうに横目にチラッと確認して、「あーなんかオフクロが言ってた気がすんな」と呟く。
…オフクロ呼び。ドラマ以外で初めて見ました。
また心の中で呟いた私が、目の前の場地圭介の威圧感、そしてこの展開に思わず微笑むと、場地圭介は構わず話し続ける。

「場地圭介」

「…はい」

「俺の名前だ」

「…うん」

普通、「俺の名前は場地圭介」だよな…逆やん。
と思いながらも、また怖さのあまりコクコクと頷くことしかできない私を見て、何故か場地圭介は満足げだった。

「じゃあな」

「さようなら」

妙に満足げな場地圭介、まだ何か話してくれるのだろうと思ったのも束の間、バイクを物凄い勢いで走らせてどこかへ行ってしまった。
息を凝らして場地圭介が曲がり角を曲がり、見えなくなるのを見送った後

「〜っはぁ、緊張した…」

思わずそう口から吹き出た。

あの、不良ですぐ人殴る心の無い頭のおかしい場地圭介と、関わってしまった…家にいるときすらも気が抜けない！
そう気づいたときには、軽く地獄だった。