. ページ12
――――
side : kne
――――
葛葉からの尋問(大方嫉妬だろうけど)を受けながら帰宅した。
優越感くらいには浸っても良いでしょ。僕とAさんしか知らない夏。生きていて尚、死んでいたような日々。
第一印象は、おかしな人だった。
去年の夏頃―――あんたが全部やってよね！と、廊下に響いた女子の話し声。内容は曖昧だが、プール清掃を押し付けられていたらしい。
水泳部が廃部したせいで汚いままのプール。
一人でやりきれそうではあるが、きっと汗水垂らして下校時刻までやる羽目になるだろうというのは余計な心配だったかな。
しゃがみ込んで床に手を当てれば思っていたよりも熱くて尻餅をついてしまった、その時だった。
A「あははそんな熱いのｲﾔｯアッッッツアダッッ」
四本ものデッキブラシが音を立てて地面にぶつかり、いつの間にか横で自滅していた彼女は自分の手をぶんぶんと振っていた。
『…大丈夫ですか？』
A「大丈夫、えっと…叶くん？」
平気そうな顔で名前を確認される。
なぜ一人なのにブラシを四本も持っているのか聞けば「効率が良さそう」との事だった。
『僕も手伝いましょうか』
A「いいの！？」
元々そのつもりで来たし彼女一人じゃ終わらなさそうだし。
五月半ばと言えど今年の夏はいつもに増して暑い、とテレビの気象予報士からの情報だが毎年言ってるだろう。
A「温暖化を誰かが食い止めなきゃいけないって事だよね」
『そういう事なんだ？』
明後日斜めの方向で物事を話す彼女とジメジメした太陽の熱が良い具合にマッチしている。そのせいかツッコミ役は不在である。
A「叶くんも先生に清掃お願いされたの？」
『うん、そっちも中村に押し付けられた？』
A「こっちはね、吉田先生」
嘘だけど。Aも嘘ついてるしまあいっか。
白い肌が太陽に照らされているのを見ながら休憩に入ろうとプールを上がればAも「やすむーあつすぎてしぬ」と疲れ果てた声を出す。
A「日光ほんとにダメ…」
『体使うの嫌いそう』
A「きらい！叶くんは運動好き？やっぱ脱いだらムキムキ？」
『脱いだら凄いのやつ？w』
清掃はかなりの地獄で投げ出そうとも思ったが、この時間は楽しかった。
境界線があるようで無いような彼女の言葉、ころころ変わる表情、きみの秘密を僕は知れない事。
密かに、惹かれていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 284人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Akari(プロフ) - 好きです！！！！！ (2月22日 16時) (
レス) id: 1f23cac0e5 (このIDを非表示/違反報告)
華凛(プロフ) - 面白くて読んでいてとても楽しいです！意見を言わせて頂けるならば作者様のおっしゃられていた『』の区別とkzhを「」名前につけることを提案させていただきたく存じます… (2月21日 21時) (レス) @page4 id: 94dc381872 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ねゆ | 作成日時：2024年2月20日 18時
